「夫が借金をしているが、離婚の理由にできるのだろうか?」
「例え離婚しても、妻の借金は夫である自分にも返済義務があるのだろうか?」
3組に1組は離婚する、といわれている昨今。
配偶者の借金を理由に、離婚を検討している方もいるでしょう。
借金をしている配偶者と離婚したら、自身にはどのような影響があるのでしょうか?
この記事では、離婚した場合の借金の扱いや、離婚した後の慰謝料や教育費問題について解説します。
相手の借金を理由にした離婚はできる?
そもそも配偶者の借金が発覚した場合、それを理由に離婚はできるのでしょうか。
結論から言うと、夫・妻の借金は離婚理由として認められます。
ただし、どの離婚制度を利用するかによって、離婚の難易度が変わります。
以下でその理由を解説していきます。
協議離婚(難易度:低)
原則として、離婚はその理由を問わず、当事者同士の合意があれば離婚することが可能です。
入籍時と同様、役所に離婚届を出すだけで成立するのです。
これを協議離婚といい、実際の離婚の約90%がこの協議離婚により、離婚が成立しています。
慰謝料や財産分与などの離婚条件は別途話し合いが必要ですが、
離婚届を提出するだけで離婚が成立するため、借金を理由として協議離婚することも可能です。
ただし、協議離婚は「当事者双方の合意」がなければ成立しません。
例えば、このような状況だと協議離婚は難しいでしょう。
- 配偶者が離婚したくないといっている
- 離婚には合意しているが、慰謝料などの条件で意見が合わない
- 相手と連絡がつかない、交流がないなど、そもそも話し合いができない
調停離婚(難易度:中)
協議離婚が難しい場合、次の段階である調停離婚を家庭裁判所で進めることが考えられます。
調停離婚でも、借金を離婚の理由とすることは可能です。
協議離婚と同様、最終的に当事者双方の合意があって離婚成立となり、離婚理由は問題にならないためです。
しかし、調停離婚は協議離婚よりも難易度はあがるでしょう。
調停離婚は、裁判官・調停委員・家庭裁判所調査官という専門家が間に入って夫婦の話し合いを進める、という点が協議離婚と大きく異なります。
これは、当事者だけでの話し合いでは離婚合意とならないため調停に進んでいる、ということが前提になっているためです。
離婚に向けた調停は、書面を提出したり、家庭裁判所に行き専門家を交えながら話し合いを進めるため、一般的に3〜6ヶ月ほどかけて話し合いを進めることになります。
調停で離婚条件などの話し合いがつくと、調停成立となり離婚できます。
しかし、調停でも折り合いがつかない場合は調停不成立となり、裁判に進まないと離婚ができなくなってしまうのです。
離婚裁判(難易度:高)
調停不成立となっても離婚したい場合は、裁判所に離婚訴訟を起こし、離婚成立を目指すことになります。
離婚裁判で離婚するためには、法律上の離婚理由(法廷離婚事由)が必要となるため、借金だけを理由に離婚することはかなり難しくなります。
法律上の離婚理由は、民法に定められている以下5つです。
・悪意の遺棄(一緒に生活しているのに、生活費を払わないなど)
・3年以上の生死不明(失踪、行方不明など)
・回復しがたい強度の精神病(婚姻関係を継続することが難しいほどの精神障害)
・その他、婚姻関係を継続しがたい重大な事由(夫婦関係が破綻していて修復が難しい)
上記の中には「借金」と明記されていないため、単に借金だけが理由だと離婚は難しいでしょう。
また、協議離婚・調停離婚と比較しても離婚成立まで時間がかかるケースがほとんどです。
事案によるため一概にはいえませんが、1〜2年ほどかかるとイメージしておいた方がよいでしょう。
さらに、もし第一審で勝訴したとしても、相手が控訴・上告すればさらに長引くことになります。
こういった点から、借金を理由に裁判離婚をすることは難易度が高いといえるのです。
借金が法律上の離婚理由に当たるケース
借金だけを理由とした裁判離婚することは難しい、とお伝えしてきましたが、借金が法廷離婚事由にあてはまるケースもあります。
例えばこのようなケースです。
- 借金をして不倫相手に貢いでいる
- 何度話し合っても生活費を家庭に入れない
- ギャンブルなどで借金を繰り返し、生活が成り立たない
このような場合は借金した事情が「悪意の遺棄」「その他、婚姻を継続しがたい重大な事由」に結びつき、離婚できるケースが想定されます。
離婚後の借金はどうなる?
前述の方法で借金を理由に離婚できたとしても、離婚後に相手の借金が自分にどのように影響するか心配されている方もいるでしょう。
実際に相手が借金した一部を、離婚後に返済するというケースもあります。
どういったものが返済対象で、何が対象外になるのか、それぞれ理解しておきましょう。
借金は原則、財産分与の対象にはならない
そもそも、借金は離婚時の財産分与に該当するのでしょうか?
答えはNOです。
財産分与は、夫婦共有財産を離婚時に分け合う制度のことです。
・離婚後の生活保障
・離婚の原因を作ったことへの損害賠償
上記3つを財産分与としていますが、夫婦が共同生活を送る中で形成したプラスの財産を基本として考えられているからです。
仮に離婚時の財産分与で配偶者の借金を夫婦で分けてしまうと、債権者にも不利益が及びます。
債権者からすれば、借金の名義人でない夫・妻の返済能力がわからず回収できる可能性も未知数であり、名義人でない方に支払い請求する根拠がないのです。
以上の理由から、借金などのマイナス財産は基本的に財産付与の対象になりません。
もし離婚交渉時に配偶者から借金の負担を要求されても、はっきり断りましょう。
相手が単独で作った借金は分与されない
財産分与の基本に則り、相手が単独で作った借金についてはもちろん、財産分与対象外となります。
例えば、趣味やギャンブルなどの浪費のために借りたお金、投資に失敗して借りたお金などがあげられます。
上記のような相手が単独で作った借金は、離婚後に相手の借入先から催促が来ることはありませんし、離婚交渉時に相手から返済を負担するよう頼まれても断ることができます。
連帯保証人となっている場合
基本的に借金は財産分与対象外となるとお伝えしてきましたが、例外もあります。
例えば、配偶者の借金の連帯保証人になっているケースです。
連帯保証人は、債務者が返済しない場合に、債務者に代わって借金返済を約束するので、返済の義務があります。
これは配偶者であっても同じです。
住宅ローンやカーローン、事業資金の融資を受ける際に配偶者に保証人になってもらうというのはよく聞く話でしょう。
連帯保証人は配偶者との約束ではなく、銀行などの債権者との契約になるため、離婚したとしても保証人をやめることができないのが原則です。
配偶者の借金を理由に離婚を検討する際は、連帯保証人や保証人になっていないか確認し、保証人になっている場合は無料相談を使って早めに弁護士に相談するとよいでしょう。
婚姻生活のための借金は、財産分与の対象になる
先に述べたとおり、原則としてマイナスの財産は分与対象外となりますが、夫婦の共同生活のために負った借金は例外です。
- 医療費、子供の教育費などの生活費が不足したために借り入れた借金
- 家族で使うために買った車のローン
- 家族で住むために購入した住宅ローン
このように、配偶者名義の借金だとしても、共同生活のための借金は離婚時に財産分与の対象として取り扱われます。
住宅ローンはどうなる?
離婚の際に悩む大きな問題として、夫婦で購入したマイホームの維持や住宅ローン返済があげられるでしょう。
住宅の価値が残ローンを上回っている、いわゆるアンダーローンの状態であれば、住宅売却益から住宅ローンを引いた差額を二人で分配することになります。
問題は、オーバーローンの時です。
オーバーローンとは、住宅の価値が残ローンを下回っていて、住宅を売却してもローンが残ってしまう状態のことを指します。
オーバーローンの状態では、差額分を支払わなければ住宅を売却できないため、離婚後も住宅ローンの返済が続きます。
この住宅ローンはどちらが払い続けるのか、離婚する前に話し合って決めなくてはなりません。
それでは、この住宅ローンは誰が支払うことになるのでしょうか?
足りない住宅ローン返済は、原則ローンの名義人が支払う
差額の住宅ローンは、夫婦の資産から引かれて分配されます。
その際、住宅ローン自体は名義人と紐づかれて残りますが、それを加味して資産を分配するのです。
例えば住宅ローン契約者が夫で、夫には預金が1,000万円・住宅ローンが700万円残っているとします。
妻は、預金もローンもないものとします。
この場合、夫の預金1,000万円から住宅ローン700万円を引いた、300万円が財産分与の対象となります。
ではもし、夫の預金が300万円、住宅ローンが1,000万円として、足りない分はどうなるのでしょうか?
住宅ローン名義人である夫が、預金から住宅ローンを引いた残り700万円を支払うことになります。
妻側からすると、夫婦の財産である夫の預金300万円が分配されないので不服に感じるかもしれません。
しかし、住宅ローンという負債を抱えずにすむのです。
ただここで注意したいのが、誰がローンの名義人(主債務者)になっているか、です。
上記のケースのように、住宅ローンの名義人が夫でも、妻が連帯保証人になっていたり、共同名義であれば住宅ローンを返済しなくてはいけなくなります。
住宅ローンの名義人は、一般的に次のようなパターンが多いと考えられます。
パターンA | パターンB | パターンC | |
夫 | 主債務者 | 主債務者 | 主債務者 |
妻 | 連帯保証人 | 主債務者 | 負担なし ※保証会社利用など |
このように住宅ローンの主債務者であるか、また、住宅に誰が住み続けるのかなど、住宅ローンに関してはかなり複雑になっています。
夫婦で話し合うことはもちろんですが、不動産会社や弁護士などのプロにアドバイスを求めながらすすめるとよいでしょう。
養育費や慰謝料はもらえる?
借金を理由に離婚ができたとして、相手に養育費や慰謝料を請求できるのでしょうか。
結論としては、養育費や慰謝料を請求できます。
以下で注意点について確認していきましょう。
慰謝料は相応の理由が必要
相手の借金が「悪意の遺棄」や「その他、婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する場合は、慰謝料を請求できるでしょう。
しかし、借金総額が比較的少なかったり、夫婦の生活に影響がないような場合は上記に該当せず、慰謝料が少額になったり、発生しないこともあります。
慰謝料は、被害者が負った苦痛や悲しみなどの精神的損害に対する賠償です。
内容や状況により、「悪意があるとはいえない」と判断されるケースもあるので、慰謝料を請求できる状況にあるかを事前に弁護士などの法律のプロに相談するとよいでしょう。
養育費は支払義務がある
養育費は、借金の有無に関わらず支払義務があります。
離婚により親権者でなくなったとしても、子どもの親であることは変わりませんので、親として養育費の支払い義務があるのです。
借金を理由にした離婚前にできること
借金による離婚を検討されている方の中には、住宅ローンなどの負債が個人の資産を上回っており、今後の生活を心配している方もいるでしょう。
また、配偶者の借金問題で悩んでいる方の中には、それさえ解決すれば離婚しなくていい、というご夫婦もいるかもしれません。
そのような時には、債務整理を検討するのも1つの手ではないでしょうか。
なぜなら、債務整理をすれば、借金そのものを減額することも可能になるためです。
債務整理を検討する
債務整理には主な方法として、以下の3種類があります。
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
任意整理をすると、将来かかる利息や遅延金をカットをすることで返済総額が減り、完済しやすくなります。
個人再生は、裁判所を通じて貸金業者と話し合い、3年〜5年の分割で返済が出来るよう支払い元本を大幅に減額する手続きのことです。
自己破産は、裁判所に破産したことを書面で提出し、「免責許可」をもらうことで、原則借金を0にしながらも、生活に必要な最低限の生活費を残せるため、再出発することができます。
各手続きにより、特徴やメリット・デメリットが異なります。
どの手続きがよいか、また、債務整理をすべきかどうかも含めて、弁護士や司法書士に相談するとよいでしょう。
債務整理をしても養育費や慰謝料の支払義務は残る
養育費や慰謝料などの離婚条件を決めて離婚した後に、相手が債務整理をしてしまった場合はどうなるのでしょうか?
養育費は非免責債権のため、仮に相手が自己破産したとしても関係なく請求することができます。
慰謝料は「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」という要件にあてはまれば、非免責債権となります。
「故意」より「悪意」の方が強い概念のため、離婚に対する慰謝料などは「悪意」とまでは認定されず、免責になってしまう可能性もあります。
また、借金を理由に離婚に至っているため、そもそも相手の支払い能力が低く、継続的に支払ってもらえない可能性も考えられます。
確実に養育費を支払ってもらうために、金額や支払い方法を明記した公文証書「離婚協議書」を作成しておくことがおすすめです。
まとめ:借金を理由に離婚しても、返済義務を負うことは少ない。離婚前に債務整理で解決できるか相談しよう
借金を理由に離婚を検討している場合、下記のポイントを押さえておきましょう。
- 借金を理由に離婚は可能、協議離婚→調停離婚→裁判離婚の順で難易度があがる
- 離婚後の借金は、相手方が単独で作った借金は返済不要だが、住宅ローンなど名義により一部返済が必要になるケースもある
- 債務整理をすれば、借金事態の減額も可能。ただし、養育費などの支払い義務は残る
離婚問題と、相手の借金問題を同時に向き合うには相当なエネルギーが必要です。
離婚の手段も借金問題も複雑なので、何がベストな選択になるのか、弁護士に相談して状況を整理してはいかがでしょうか。
弁護士に依頼すると、こんなメリットがあります。
・離婚によりどういったことが起こるか、法律の知識から的確に分析できる
・借金問題の解決に向けて、どういった手段があるか教えてもらえる
専門的なアドバイスだけでなく、提出する書類から代理人として相手方とのやりとりまで、トータルでサポートしてくれます。
ひとりで悩むのは大きな問題ですから、抱え込まず、専門家に頼りながら解決を目指しましょう。