交通事故で示談交渉を弁護士に依頼しているのに、なかなか進まないときはどうすればいいのでしょうか。弁護士に示談を任せると多くのメリットがありますが、なかには上手くいかないケースもあります。
交通事故の示談交渉とは
交通事故が起きたとき、加害者が支払う慰謝料などの賠償金額を決めるために行われるのが示談交渉です。
示談とは
被害者と加害者が話し合い、民事裁判を起こさずに双方の合意によって解決することを「示談」といい、相手方と行う示談のための交渉を「示談交渉」といいます。
似た言葉に「和解」がありますが、和解の場合は双方が歩み寄りを前提とするのに対して、示談では犯罪や事故の加害者が一方的に条件に応じるケースも含まれます。
交渉の結果、両者が納得できる条件が決まると示談書が作成され、加害者からの謝罪や慰謝料など損害賠償金の支払いが行われます。
示談交渉は被害者本人が行うこともできますが、交通事故では相手方の保険会社と話し合わなければなりません。事故や法律の知識に乏しい被害者には負担が大きいですし、少ない賠償金額で話をつけられてしまうリスクもあります。
交通事故での示談交渉の流れ
交通事故が起きたときの一般的な示談交渉の流れは以下のようになります。
警察へ通報し、人身事故として届けるとともに相手方の保険会社に連絡を行います。
事故当日はケガをしていないように思っても、必ず病院で診てもらうようにします。
事故後は医師の指示に従って適切な治療を受けるようにします。
仕事が忙しいなどの理由で勝手に通院回数を減らしたり、治療を止めたりすると賠償金の交渉で不利になることがあるため注意が必要です。
治療はケガが治る、もしくは病状固定と診断されるまで続けます。病状固定とはこれ以上治療を続けても症状が改善しないと判断される状態です。交通事故では治療が終わるまで、ケガや後遺症への治療費などがどれくらいになるかわかりません。
病状固定後も手のしびれなど、何らかの症状が残ってしまったときは後遺障害等級認定を受けるための申請を行います。
後遺障害が認められると、相手方から「後遺障害慰謝料」や後遺症によって仕事などに影響が出ることへの補償である「後遺障害逸失利益」を受け取れるようになります。
治療費や後遺障害慰謝料などが算定できるようになると、相手方の保険会社との間で示談交渉がはじまります。双方の合意により示談が成立すると、2週間ほどで示談金(加害者からの賠償金)が支払われます。
交通事故の示談を弁護士に依頼するメリット
交通事故の被害に遭ったとき、示談交渉を弁護士に依頼すると具体的にどのようなメリットがあるかみていきましょう。
示談交渉をスムーズに進められる
法律や交通事故に関する知識をもっている弁護士なら、示談交渉をスムーズに進められ、被害者にとっても納得のいく条件で示談を成立させられます。示談が成立しないと賠償金が受け取れないので、示談交渉はなるべく早く進めるのが望ましいといえます。
しかし、被害者自身が相手方の保険会社と直接交渉すると事務的な手続きが増えることもありますし、精神的にも大きな負担になります。さらに、保険会社は支払う保険金額をできるだけ低く抑えようとするため、保険会社の言いなりになって交渉を進めていると、相場よりも低額の賠償金で示談させられてしまう可能性もあります。
示談金が増額できる
交通事故で加害者に慰謝料を請求するときにはいくつかの算定基準があり、どれを採用するかでもらえる慰謝料額が大きく変わります。交通事故の慰謝料算定基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つがあり、この中で弁護士基準が極めて高額の慰謝料を受け取れます。
「自賠責基準」はすべての自動車に加入が義務づけられている自賠責保険による算定基準です。最低限の補償を目的としているため、もらえる慰謝料は3つの中でも低い額しか受け取れません。
「任意保険基準」は自賠責基準よりは高額とされていますが、実際にはそれほど大きな差はなく、弁護士基準と比べるとはるかに低額です。
「弁護士基準」は自賠責基準と比べると慰謝料額が2倍から3倍になることがあり、弁護士基準の慰謝料こそ交通事故の被害者が本来受け取るべき金額といえるでしょう。
弁護士基準は裁判基準ともいわれ、裁判に訴えるか弁護士に依頼したときのみ適用されるもので、裁判になると被害者の負担も大きくなるため賠償金に弁護士基準を適用する方法としては弁護士に依頼するのが一番です。
示談交渉が進まないとどうなるか
ここまで、示談交渉が交通事故で賠償金を受け取るための重要な話し合いであることを説明してきましたが、もしも示談交渉がスムーズに進まないとどのようなことが起きるのでしょうか。示談交渉が遅れてしまったときに考えられる悪影響を解説します。
慰謝料が受け取れない
交通事故では、示談金の支払いは示談成立後に行われます。そのため、示談交渉が終わらないといつまでたっても賠償金を受け取れなくなります。
交通事故の示談金は、ケガの治療費や後遺症のリハビリなどにかかる費用、ケガにより仕事を休んだり収入が減ったりしたことに対する生活費の補填として使われる大切なお金です。
損害賠償請求の時効が成立してしまう
さらに大きなリスクとして、慰謝料の請求自体ができなくなってしまうことがあげられます。民法における損害賠償の請求には時効が決められており、これを過ぎると相手から慰謝料をもらうこと自体ができなくなります。
交通事故での損害賠償請求権の時効は、物損と人身の場合で異なっており、民法724条では物損の時効を3年、人身を5年と定めています。さらに、不法行為の発生から20年間請求権を行使しないときも同様に時効になります。
事故に遭っているのに20年も放っておくはずがないと思うかもしれませんが、ひき逃げのように加害者が不明の事故では、そのまま時間が経って時効を迎えてしまう可能性もあります。以下が示談金に含まれる各賠償金の時効です。
損害賠償金 | 時効 |
---|---|
自動車の修理費 | 事故発生日の翌日から3年 |
ケガの治療費、入通院慰謝料、休業損害 | 症状固定日又は治癒時の翌日から5年 |
後遺障害慰謝料、逸失利益 | 症状固定日の翌日から5年 |
死亡慰謝料、逸失利益、葬儀費用など | 死亡日の翌日から5年 |
ひき逃げなど加害者不明の事故 | 事故発生日の翌日から20年(加害者がわかった場合は、判明した日の翌日から物損3年、人身5年) |
ここで注意しないといけないのは時効の起算日が、示談交渉がはじまってからではなく「事故発生日の翌日から」などになっている点です。3年や5年と聞くと十分余裕があるように感じますが、示談交渉が頓挫して双方何ら連絡しないまま漫然と期間が経過してしまうと時効になってしまいます。
しかし、2020年4月の民法改正後は、当事者間で権利に関する協議を行う旨の合意が得られれば、時効の完成猶予(民法151条)が適用されます。いずれにしても、交渉が長引けば被害者にとってはデメリットばかりですから、交通事故では早期の示談成立が望ましいといえます。
スムーズな示談交渉のため弁護士に依頼しても、思うように示談進まないこともあります。続いては、弁護士がいるのに交渉が遅れてしまう理由と対策についてみていきます。
示談交渉がうまく進まないケース①自分側の弁護士に問題がある
交渉がうまく進まない理由の1つとして、被害者が依頼している弁護士に問題がある可能性が考えられます。具体的には、経験不足の弁護士に依頼してしまったり、忙しくてあなたの案件が後回しにされたりしているケースです。
交通事故案件の経験が少ない
弁護士といっても得意分野は様々で、交通事故に強い弁護士がいる一方、これまであまり交通事故案件を受け持ったことのない弁護士もいます。
交通事故には、双方が事故に対してどれだけ責任を負うかを決める「過失割合」や「後遺障害」の認定手続きなど、専門的な知識が必要で、慣れていないと対応が難しくなる問題もあります。
弁護士が忙しく対応が後回しにされている
長期間交渉が滞っていて進展がない場合は、弁護士が忙しいなどの理由からあなたの案件への対応を後回しにしている可能性があります。
交通事故の手続きには、数週間から1か月程度かかるものもあり、待ち時間は長くなるのは普通です。そのため、交渉が進んでいないように見えても弁護士だけに問題があるとはいえません。
しかし、なかには少人数の弁護士事務所で他の案件との兼ね合いから進捗が遅れてしまうこともあります。弁護士の仕事には決まった納期などがないことも多く、早期に業務を進めるという考えをあまりもっていない人もいます。
依頼した弁護士に問題がある場合の対処法
自分の弁護士に問題があって示談交渉が進んでいないと感じたときにとれる対処法にはどのようなものがあるでしょうか。
弁護士とこまめな連絡をとる
弁護士に問題がある場合には、向こうから進捗報告などをなかなかしてこないことも多いため、こちらからこまめに連絡してコミュニケーションをとるようにしましょう。電話で連絡がとりにくい場合は、メールの利用や事務所スタッフに連絡してみるとよいでしょう。
弁護士会に相談する
弁護士と連絡をとっても、なかなか思うように対応してくれない場合は、弁護士会に相談するのも1つの方法です。
日本弁護士連合会には市民窓口があり、弁護士へのクレームや不満などを伝えられます。相談しても対応してもらえるとは限りませんが、必要があると認められた場合は、弁護士会が問題解決に動いてくれるケースもあります。
弁護士を変更する
弁護士自身の能力に問題があるケースでは、弁護士を変更したほうがいい場合があります。交通事故に不慣れな弁護士のように、実力が不足している場合、相談などでは根本的な解決にならないことも多いです。あらためて、交通事故に強くて実績もある弁護士に依頼するほうがスムーズな解決につながります。
弁護士の変更は現在依頼している弁護士に委任契約の解任通知を行った後、新しい弁護士に依頼します。ここで注意すべきは、前の弁護士にきちんと変更を伝えることと新しい弁護士を見つけてから解任することです。
解任を伝えておかないとトラブルのもとになりますし、新しい依頼先が決まっていないと、最悪、弁護士が見つからないといった事態も考えられます。また、弁護士を変更すると、費用面での負担が大きくなります。
費用面ではデメリットもありますが、スムーズな示談成立を目指すなら、弁護士を変更するのも有力な方法です。無料法律相談などを利用して信頼できる弁護士を見つけるようにしてください。
示談交渉がうまく進まないケース②相手側の弁護士が出てきた
相手方が弁護士に依頼したケースでは、弁護士同士の話し合いのため示談交渉に時間がかかることがあります。交通事故では、賠償金を軽減するために加害者側や相手側の保険会社も弁護士へ依頼できます。
その場合は、相手の弁護士から依頼者の代理として交渉を行うことを知らせる「受任通知」が送られてきます。ではなぜ相手側の弁護士が出てくると交渉が上手く進まなくなるのでしょうか。
相手の弁護士が強気の交渉をしてくる
相手側の弁護士が賠償金などの支払い額を減らすため、実際には相場よりも少ない慰謝料を提示するなど、強気の交渉をしてくると双方の主張が食い違い、なかなか進展しなくなります。
相手の弁護士が事故の事実や過失を認めない
相手側の弁護士が事故の事実や加害者の過失を認めない場合も交渉が長引く可能性があります。
交通事故では過失割合に応じて慰謝料が決まり、被害者の過失が大きいと慰謝料が減額されるため相手の弁護士がなかなか加害者の過失を認めず、割合を下げようとしてくることもあり得ます。
相手の弁護士との間で連絡が滞る
相手の弁護士が話し合いに積極的でなく、こちらの弁護士が示談交渉を進めようとしてもなかなか連絡がつかずに時間ばかりが経過してしまうケースです。
交通事故の損害賠償請求には時効があるため時間の経過は加害者に味方します。相手側にきちんと交渉する気がないようなら、示談での解決は難しくなります。
相手側の弁護士が原因のときの対処法
相手側の弁護士によって示談交渉が進まない場合にできる対処法にはどのようなものがあるでしょうか。
きちんと証拠を集める
相手の弁護士が加害者に有利な主張をしてくるのに備え、事故の事実や過失などを証明できる証拠を用意しておきましょう。
事故の原因などを明らかにできる記録や写真、ドライブレコーダーの映像、事故とケガの因果関係を証明できる医師の診断書などを揃えておき、きちんと相手側に見せることで強引な主張をさせないようにします。
交通事故に強い弁護士に依頼する
相手側弁護士との交渉においても、ものをいうのはこれまでの経験や実績です。交通事故案件を数多くこなしてきた弁護士なら、相手の弁護士が出てきた場合の対処法もわかっているので遅れを最小限に抑え、スムーズに示談交渉を進めてくれる可能性が高いです。
示談交渉がうまく進まないケース③相手本人や保険会社に問題がある
事故の加害者本人や相手方の保険会社に問題があるケースでも示談交渉が進まないことがあります。
加害者の対応が不誠実
連絡をしても無視される、話し合いに応じようとしない、相手の保険会社に連絡していないなど、加害者の対応が不誠実で、そもそも示談交渉を進める気がない場合にはスムーズな示談交渉はできません。事故のときから相手が不誠実で信用できそうにないと感じたら注意が必要です。
相手が任意保険に加入していない
加害者が自賠責保険のみで任意保険に入っていないケースでも、示談交渉が遅れることがあります。この場合、相手方の保険会社が代理で交渉してくれないので、示談交渉は加害者と直接行うことになります。
加害者も交渉には慣れていないため手続きに時間をとられることも多く、さらに相手が非協力的であったりすると余計に話し合いが遅れてしまいます。
加害者が保険会社に連絡していない
加害者が保険に加入していても、肝心の保険会社への連絡をしていない場合があります。保険会社が対応しないといつまでも示談交渉ができないので、相手に連絡してもらうよう頼むか、もしくは保険会社を通さず個人で賠償するかを確認するようにしてください。
保険会社の対応が遅れている
相手の加入している保険会社の対応に問題があり、示談交渉がスムーズにいかない場合もあります。
保険会社で交渉に当たっている担当者は一般的に1人あたり100件ほどの案件を抱えているといわれます。一案件にかける時間は限られますし、たいしたことがない事故だと思われて後回しにされたり手続きが遅れたりすることもあります。
保険会社の提示する示談金額が低い
相手方の保険会社が相場より低い示談金額しか提示してこないと金額面で折り合いがつかず、示談交渉に時間を要します。保険会社の慰謝料は通常、任意保険基準で計算され、これは自賠責基準より高いといわれます。
しかし、保険会社も民間企業のため支払う保険金はなるべく減らしたいと考えるのが普通で、被害者にとって納得できないような金額を提示してきたり、後遺障害に関してもあまり重い等級は認めたがらないことも多いです。
過失割合が決まらない
過失割合について双方の主張が食い違った場合も交渉がなかなか進まない原因になります。
過失割合の決定は警察が介入せず、双方の話し合いによって決められます。被害者の割合が高くなると示談金が減額されるため、保険会社が加害者に有利な主張をしてくることがあり、結果として慰謝料や逸失利益の計算で時間がかかってしまいます。
加害者や保険会社に問題があるときの対処法
加害者や相手方の保険会社に問題があり、こちらの主張を簡単には受け入れてくれないケースでは、どのような対処をとればいいのでしょうか。
内容証明郵便を利用する
加害者がなかなか交渉に応じようとしない場合は、内容証明郵便を利用して損害賠償を請求します。
内容証明郵便は郵便局のサービスの1つで、郵便物の内容や送った日付、相手が受け取った日付などを記録に残してくれます。通常の郵便物より料金は高くなりますが、不誠実な対応をする相手には、こちらが本気で請求を考えていることが伝わりますし、心理的なプレッシャーにもなります。
基本郵便料金 | 84円(定形郵便物25g以内) |
---|---|
一般書留料金 | 435円 |
内容証明料金 | 440円 |
配達証明料金 | 320円 |
裁判を行う
本来、交通事故の損害賠償は示談交渉で決められると一番よいのですが、話し合いだけで決着しない場合は訴訟を起こすのも1つの方法です。
不誠実な加害者や保険会社を相手に交渉をしていても、意味のある交渉ができずに時間ばかり過ぎてしまう恐れがあります。
まとめ
交通事故の示談交渉は通常、弁護士に依頼する方がスムーズに進みますが、なかには相手側の問題や弁護士自身の問題によってなかなか進展しないこともあります。
それぞれのケースで原因やとれる対処法は様々ですが、やはり、一番いいのは交通事故案件に強い弁護士に依頼することです。実績豊富な弁護士であれば、こういった問題への対処も心得ているので悪影響を最小限に抑えてくれるはずです。
交通事故の示談交渉を依頼する際は、交通事故案件の経験豊富な弁護士を選ぶようにしてください。
- すべて弁護士にお任せください!!
弁護士が示談交渉、慰謝料の増額をサポート!- 交通事故のご相談はコチラ