名誉毀損での過去最高額な慰謝料請求額は?
ネットでの誹謗中傷を巡る裁判で、名誉毀損への慰謝料として請求された最高額はいくらなのでしょうか。
過去にあった100万円を超える高額請求訴訟の事例を紹介します。(なお、全ての裁判例を網羅しているわけではありませんので、ご了承ください。)
2016年、元朝日新聞記者の長女が、高校生だったときにTwitter上で氏名や写真とともに自身への中傷を投稿されたとして加害者の男性に170万円の支払いを求めた訴訟です。
被害者はアメリカのTwitter社やプロバイダに対して情報開示を請求し、加害者を特定しました。
東京地裁は、Twitterの拡散しやすさに加え、被害者が当時高校生であったことも考慮し、「慰謝料は・・・請求分を上回る200万円に相当する」という考えを示しています。
現役プロ野球選手の妻に対し、ネットの匿名掲示板に「そりゃこのブスが嫁ならキャバクラいくわ」などと容姿を中傷する書き込みを行った事例です。
被害者は情報開示請求により加害者を特定し、投稿者の20代女性会社員に慰謝料と開示請求の費用等を含めた191万9686円を請求しました。
女性はマスコミからの取材に対し、「軽い気持ちでした書き込みでまさかこんなことになるなんて」と話しており、安易な気持ちでした誹謗中傷が高額訴訟につながる危険性がよくわかる事例です。
2020年、フリージャーナリストの伊藤詩織さんがTwitterで自分を誹謗中傷するツイートに「いいね」したとして、自民党の杉田水脈議員に220万円の慰謝料を求めたものです。
伊藤さんは、過去にTBSの元記者から性的被害を受けたことを告発しており、ネット上では彼女を中傷する書き込みが多く見られました。杉田議員が「いいね」をつけたツイートもそのうちの1つとみられます。
国会議員の立場にある杉田議員が「いいね」したことで、ツイートの拡散にも大きく影響を及ぼしていると考えられたことが高額請求の理由になっているとみられます。
女優の春名風花さんがTwitter上に虚偽の内容を書き込まれ、名誉を傷つけられたとして投稿者を提訴した事例です。
春風さんは加害者に対して、265万4000円の慰謝料を請求しました。この件では、裁判による判決ではなく、当事者同士による和解が成立しており、示談金は315万4000円となっています。
2021年、在日コリアンの家族をもつ大学生の男性が、匿名ブログで差別的な書き込みをされたとして、加害者の男性に対し300万円の慰謝料を請求した事例です。
一審では91万円の支払いが命じられ、控訴審ではさらに130万円と慰謝料が増額され、1回の書き込みに対するものとしては異例の額になりました。
慰謝料が高額になった理由として、判決では差別そのものを違法としており、ヘイトスピーチに対する抑止効果も期待したものといわれます。
マンションの理事長であった加害者が、自身のブログに「A商店がマンションの隣に、突然廃材置き場を作った」とする記事を載せ、「作業中は舞い散る粉じんによって窓は開けられない,そのけたたましい重機の騒音によってテレビの音も聞き取れない,粉じんで汚れる窓やバルコニー,隣接するマンション駐車場の車は砂だらけ。」、「苦情を伝え改善対策をお願いするも誠意ある対応は一切なし。」など事実に反する内容を投稿した事例です。
実際には、問題の空き地はA商店が廃材置き場として借り上げた土地で、住民からのクレームに対しては騒音対策などを実施しており、苦情を入れた住民もマンション全体の一部でした。
A商店側は、ブログ管理者に慰謝料541万8000円を求める訴訟を起こし、判決では100万円の支払いが命じられています。
企業が被害者になっていたこともあり、請求額も500万円を超える高額となっています。
2016年、被害者である弁護士の伊藤和子氏が評論家の池田信夫氏から事実無根の誹謗中傷を受けたとして慰謝料を求めた裁判です。
池田氏は、児童ポルノの国連調査に関して、国連の専門家が「日本の女子高生の3割は援助交際をしている」と誤った発言をしたのは「(伊藤弁護士が)『日本の女子学生の30%が援助交際』などのネタを売り込んでいる」からだなどとネット上で批判しました。
慰謝料請求660万円に対し、東京地裁は池田氏の名誉毀損を認め57万円の支払いを命じる判決を出しています。
加害者が、無断で被害者の顔写真や登録名などを使用してSNSのアカウントを作成し、このアカウントを使って本人になりすまして、他人を中傷する書き込みを行った事件です。
被害者の男性は加害者男性に対して、肖像権、名誉権の侵害などを理由に723万円という高額の慰謝料請求を行いました。大阪地裁による判決では、加害者に対して130万円の支払いを命じています。
請求額と比較すると大幅に下がっていますが、名誉毀損の慰謝料としては高額で、行為の悪質性が考慮された結果と考えられます。
どんな場合が高額請求対象となるか
従来、名誉毀損の慰謝料請求の相場は10万円から100万円ほどといわれてきました。ですが、最近では請求額が数百万円を超える高額なものになる傾向がみられます。
内容が悪質な場合
差別やなりすましの事例のように、書き込みの内容が悪質である場合や何度も繰り返して投稿していた場合など、被害者に与える精神的苦痛が大きいと考えられるものについては慰謝料が高額になる傾向があります。
マスコミ報道は高額になる傾向
被害者が著名人や芸能人など社会的評価の影響を受けやすい人の場合、請求額が高額になる傾向になります。
雑誌やテレビなどに事実と異なる報道をされたときのように、マスコミに対する慰謝料請求は社会に与える影響が大きいため高額化する傾向があり、過去には数千万から億を超える請求がされたこともあります。
ですが、一般人同士の誹謗中傷の事例ですと、ここまでの高額請求に至るケースは少ないと考えられます。
請求額が高額だから判決も高額とは限らない
判例を見ると、請求額が高額だからといって、必ずしも命じられた支払額も高額とは限りません。請求額が数百万円でも、判決は数十万から100万円と相場通りになっているケースもみられます。
しかし、過去には判決の額が請求額より増額された事例もあり、裁判所も悪質な事件に対しては厳しい判決を出す可能性があります。
慰謝料請求を行う上ですることとは?
ネット上で自分への誹謗中傷を発見し、投稿した相手に慰謝料を請求しようとする場合、具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。請求までの手順を解説します。
証拠を保存する
最初に、問題となる投稿をプリントアウトしたり、スクリーンショットを撮って証拠を残しましょう。加害者が投稿を削除してしまうと慰謝料請求ができなくなる場合もあります。
投稿者を特定する
発信者情報開示請求を行って、書き込みした相手を特定します。サイト管理者に対してIPアドレスの開示を求めたうえで、プロバイダを特定し、プロバイダに対して氏名・住所など投稿者の個人情報開示を請求します。
管理者やプロバイダが開示を拒否した場合は、裁判所での訴訟によって開示を請求する必要があります。
投稿の削除請求をする
サイト管理者からIPアドレスが開示された後は、プロバイダへの開示請求と並行して、書き込みされたサイトやSNSの管理者に連絡して問題の投稿を削除してもらいます。
弁護士へ相談
慰謝料請求までの過程では、削除請求や開示請求など裁判所に対して法的手続きをとらなくてはならない場合があります。
こうした手続きは一般の人には難しいものですし、慰謝料請求には民事で訴訟を行う必要があるため、名誉毀損で慰謝料請求を考えている方は、一度法律の専門家である弁護士へ相談するようにしてください。
まとめ
近年、ネットでの誹謗中傷への社会的な関心が高まっていることもあり、名誉毀損に対する慰謝料も請求が高額になる傾向があります。
なかには数百万円を超える金額を請求される事例もあり、請求した通りの額が認められるとは限りませんが、悪質なものについては裁判でも高額の慰謝料を支払う判決が出ています。
もし、SNSなどの誹謗中傷に悩んでいるなら、裁判で加害者に慰謝料を請求することを考えてみてください。弁護士に相談すれば、投稿者の特定から訴訟の手続きまで様々な面で力になってもらえます。
被害に遭っているのなら、泣き寝入りせず、まずは相談してみることをおすすめします。