後遺障害の申請方法には、被害者請求と事前認定の2つがあります。被害者請求は必要書類を自分で用意しなければならないといったデメリットがありますが、適切な後遺障害等級を認定してもらいやすいというメリットがあります。
被害者請求は後遺障害等級に申請する方法の一つ
被害者請求は交通事故の被害者が直接相手方の自賠責保険に対し、後遺障害等級認定の申請や損害賠償請求を行うことです。被害者請求は「自動車損害賠償保障法」の第16条に定めがあることから、16条請求とも呼ばれています。
後遺障害の等級認定の申請方法には、被害者請求の他に「事前認定」があります。事前認定は相手方の任意保険会社が被害者の代わりに、自賠責保険に後遺障害の等級認定を申請するシステムです。
自動車保険の自賠責保険と任意保険の違い
自動車保険には自賠責保険と任意保険がありますが、後遺障害の被害者請求は自賠責保険に申請します。
自動車保険は2階建て構造になっています。1階部分が強制的に加入となる自賠責保険で、原則すべての車が対象となります。2階部分が自由に加入できる任意保険です。
基本的に保険金は自賠責保険に請求し足りない分を任意保険に支払ってもらうという順番で使用します。
自賠責保険
自賠責保険は被害者保護の立場から、社会保障制度的な要素が強い保険です。自動車を保有している全てのドライバーに加入が義務付けられており、交通事故が起きたときは確実かつ迅速に保険金を受け取れます。
ただし、補償金額は最低限に設定されており、自賠責保険だけで全ての損害を賄うのは困難です。また、他人を死傷させる人身事故や死亡事故のみに適用されるため、車両の損壊といった物損事故は保険金の請求ができません。
任意保険
任意保険は「任意」という名前の通り、ドライバーが自由に加入できる自動車保険です。
自賠責保険では最低限の保険金しか受け取ることができないため、自賠責の上限を超えた賠償は任意保険で賄うことになります。
自賠責保険だけですべての補償を賄うのは難しいことから、現状では多くの人が任意保険に加入しています。しかしなかには金銭的な負担が大きいといった理由で、加入していないドライバーも存在しています。
後遺障害が認定されないと賠償金は請求できない
交通事故でむち打ち症などの後遺障害が残った場合、自賠責保険や任意保険に後遺障害に関する保険金(後遺障害慰謝料など)を請求できます。ですが、後遺障害に関する損害賠償請求が認められるためには、自賠責保険が定める後遺障害等級の認定を受けなければなりません。
後遺障害の等級は、後遺障害の症状に応じて1〜14級に分類されています。1級に近づくほど重い後遺症が残ったとみなされます。
後遺障害の等級認定によって、損害賠償の金額は大きく左右されます。後遺障害が残ったときは必ず申請しましょう。
「被害者請求」と「事前認定」の違い
後遺障害の被害者請求と事前認定の大きな違いは、主に「必要書類を主に用意するのが誰か」「書類の提出先はどこか」の2つです。
それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、どちらの方法で後遺障害を申請するかを決めましょう。
被害者請求のメリット・デメリット
後遺障害の被害者請求は、被害者が自分で必要書類を収集し自賠責保険に直接提出します。
・手続きの透明性を確保できる
・適切な資料を提出できれば等級が認定されやすくなる
・示談成立前に自賠責から保険金を受け取れる
・手間や時間がかかる
・資料を集める際に費用がかかる
・等級認定の知識がないと不備がおきやすい
被害者請求は被害者が自ら必要書類を集めて提出するため、後遺障害等級の認定に有利な資料を選択して提出できます。後遺障害の認定基準を満たす資料を提出できれば、適切な等級が認定される可能性は高くなるでしょう。
また、被害者請求では自賠責保険から先払いで最低限の補償を受けられます。交通事故では入院費や治療費などが大きな負担になると想定されますので、示談成立までの経済的な負担を減らすことが可能です。
事前認定のメリット・デメリット
後遺障害の事前認定は、相手方の任意保険会社が必要書類を用意し自賠責保険に提出してくれます。被害者は医師が作成した後遺障害診断書を加害者側の任意保険会社に提出するだけです。
・手間がかからない
・資料の収集などにかかる費用を節約できる
・適切な等級が認定されにくくなる
・自賠責から保険金を先払いで受けられなくなる
事前認定は後遺障害の申請手続きを相手方保険会社が代わりに行ってくれます。被害者本人に手続きの手間や負担がかからないのが特徴です。
保険会社は支払う保険金をできるだけ減額したいという本音があります。後遺障害が認められると、自社が賠償金として支払うお金が増えることになります。そのため加害者側が有利になる内容の書類を用意することもあり得るのです。
事前認定は後遺障害である後遺症と認められなかったり、本来より低い等級に認定されてしまうことにつながりやすいのが大きなデメリットといえるでしょう。適切な後遺障害等級に認定してもらうためには、被害者請求をおすすめします。
後遺障害を被害者請求で申請し認定結果が出るまでの流れ
後遺障害を被害者請求で申請するときの、「症状固定→書類提出→結果が出る」という一般的な流れを解説します。
1、症状固定の診断を受ける
後遺障害を被害者請求で申請できるのは、医師に「症状固定」と診断されてからです。
症状固定は交通事故に遭ったさいに負ったケガが、これ以上の治療を続けても改善が見込めない状態を指します。
症状固定の時期は原則として医師のみが決定できます。まれに相手方の保険会社が症状は固定したと判断し、治療費の打ち切りを打診してくることがあります。しかし主治医の指示があるまで、安易に応じないようにしてください。
2、相手方の自賠責保険に必要書類を提出する
被害者請求では後遺障害の認定に必要な書類を加害者側の自賠責保険に提出します。
事前に後遺障害診断書やレントゲンやMRI、CTといった画像検査の結果を、後遺障害の証拠として収集しておきましょう。後遺障害申請の必要書類がすべて準備できたら、相手方の自賠責保険に提出してください。
なお、提出する書類の内容で後遺障害の認定可否が決まります。必要書類がすべて揃っているか、記載内容が間違っていないか、必ずチェックし万全の状態にしておくことが大切です。
3、審査結果が通知される
被害者請求による後遺障害認定の審査が終わると、加害者側の自賠責保険会社を介して結果が通知されます。後遺障害が認定されると、被害者の口座に等級に応じた自賠責保険分の後遺障害慰謝料・逸失利益が振り込みされます。
被害者請求の結果が出るまでにかかる時間
被害者請求での後遺障害申請から結果が出るまでの期間は、平均1か月〜2か月程度です。
損害保険料率算出機構が公表している統計によると、72.7%の事案は30日以内に調査が完了しています。2ヶ月以上かかるケースは全体の14.5%ほどであり、ほとんどのケースでは60日以内に結果が通知されていることになります。
ただし、後遺障害の中でも高次脳機能障害や外貌醜状など等級が高くなるような後遺症は、認定までの期間が長くなりがちです。状況によっては審査に6ヶ月以上要するケースもあることは頭に入れておきましょう。
被害者請求に必要となる書類
後遺障害における被害者請求では、被害者が自分で必要書類を取り揃えなければなりません。
以下のような書類を準備しておきましょう。
書類 | 発行者・作成者 |
---|---|
①支払請求書 | 請求者 |
②交通事故証明書 | 自動車安全運転センター |
③事故発生報告書 | 運転者・被害者 |
④後遺障害診断書 | 医師 |
⑤請求者本人の印鑑証明書 | 市区町村役場 |
⑥診療報酬明細書 | 医療機関 |
⑦通院交通費明細書 | 被害者など |
⑧休業損害証明書 | 勤務先など |
⑨委任状および委任者の印鑑証明 | 委任者 |
⑩MRIやCT等の検査結果 | 医療機関 |
後遺障害の被害者請求に必要となる提出書類は多数あり、書式も取り寄せる場所もバラバラです。被害者の方だけで全てを収集するのは大変な作業だと考えられますので、被害者請求は弁護士への依頼を検討するのが良いでしょう。必要書類を収集する作業や申請手続きを一任できます。
書類のなかでも特に後遺障害診断書と後遺症を詳しく伝える追加資料は、等級認定の是非を大きく左右する資料です。弁護士は後遺障害診断書や検査結果の確認も行ってくれるため、適正な等級に認定されやすくなります。
被害者請求で申請するさいのポイント
被害者請求を行うさいの注意点を押さえておくと、後遺障害に認定されやすくなります。
被害者請求には時効がある
後遺障害の被害者請求には時効があります。期間は症状固定時から2年~3年間です。
時効期間が過ぎてしまうと等級申請ができなくなってしまうため、それまでに手続きを済ませてください。
時効期間が差し迫っているときは、時効中断措置を取りましょう。自賠責保険に「時効中断申請書」を差し入れることで、時効を中断できます。
なお、事前認定は任意保険会社が被害者に保険金を支払う前であれば、申請期限は特に定められていません。ただし、加害者に対する損害賠償請求権は、症状固定の翌日から5年で消滅時効が成立してまうので注意が必要です。
政府補償事業を利用する
加害者側の保険会社に保険金を請求できない事故では被害者請求が行えないため、「政府保障事業」を利用して保障を求めることになります。「政府保障事業」とは、ひき逃げ事故や無保険事故にあった被害者に対して、国土交通省が損害を填補する制度です。
具体的にはひき逃げ事故で加害者と特定できない、加害者が無保険といった交通事故です。
・ひき逃げ事故
ひき逃げ事故は加害者を特定できず加害者の保険会社も特定できないことから、最悪の補償を受けられないおそれがあります。
・加害者が無保険
加害者が無保険の場合は、相手方の保険会社から補償を受けられません。
弁護士に依頼する
被害者請求で後遺障害を申請するなら、弁護士に依頼するのが良いでしょう。弁護士に任せると被害者の負担を軽減しつつ、賠償金といった示談金を増額できるというメリットが生まれます。
被害者請求は後遺障害の認定に有利な資料を添付することで、適切な等級が認められやすくなる強みがあります。しかし、後遺障害診断書などの知識が不十分である人が必要書類を用意しても、記入漏れが発生して適切な等級が認められなくなる確率が高くなってしまいます。
そこで、頼りにしたいのが弁護士です。
たとえば、弁護士は診断書の内容をチェックし、不足があれば医師に診断書の追記を働きかけてくれます。
後遺障害など、交通事故の事案を熟知している弁護士だからできる手段です。
被害者請求による後遺障害の申請は、手続きに手間がかかります。
必要書類を集めようとしても個人で対応するのは難しく、書類が不足していたといった事態になりかねません。
しかし、交通事故に強い弁護士に被害者請求の申請手続きを全て一任できます。必要書類の収集も代わりに行ってくれるため、被害者の負担を大幅に減らせるのです。
被害者請求で等級が認められると、加害者側に後遺障害慰謝料などの賠償金を請求できます。
相手方の任意保険会社が提示する賠償金の額は、「任意保険基準」で算出します。最低限の補償となる自賠責保険基準とさほど変わらない低い金額となってしまい、十分な補償が受けられるとはいえないでしょう。
弁護士に依頼すれば高額の基準で慰謝料を算定する、「弁護士基準」で請求できるようになります。
被害者請求の結果に不服があるときの対処法
被害者請求で後遺障害を申請しても、必ずしも想定していた等級が認められるとは限りません。等級非該当など、納得いかない判断になることはあります。
等級認定の申請が認められなかったときは、相手方の自賠責保険に「異議申立て」を行うと、適切な等級が改めて認定される可能性があります。
異議申立てをする方法
異議申立ての方法にも、事前認定と被害者請求があります。審査期間はだいたい2〜3ヶ月です。納得いく結果が出るまで何度でも利用することができます。
異議申立ては「異議申立書」に必要事項を記入し保険会社に提出します。書式は保険会社から取り寄せ可能です。
参考:国土交通省・自賠責保険・共済ポータルサイト
異議申立てが認められると、初回では認められなかった等級の認定、等級の引き上げといった措置がとられます。
異議申立てを成功させるためのポイント
重要なのは、初回の審査で等級が認められなかった原因をしっかり分析することです。対策を練らないまま異議申立てをしても、審査結果を覆すことは難しいでしょう。
異議申立てを成功させるためには、初回の被害者請求で足りていなかった書類を提出し改めて後遺障害の存在を証明できることが大切です。
しかし、等級が認定されなかった原因を突き止めて新たな資料を用意するためには、相応の専門知識が必要になります。交通事故の後遺障害申請に詳しくないと、希望を叶えるのは困難でしょう。
まとめ
交通事故による後遺障害は、被害者請求で申請するのがおすすめです。
たくさんの必要書類を用意しなければならず申請方法が複雑というデメリットがありますが、適正な等級に認定されやすいのは大きなメリットです。
ただ、被害者請求のデメリットは、弁護士に依頼することで解消できます。交通事故について豊富な知識と経験を持つ弁護士であれば、後遺障害の認定に必要な書類をスムーズに集めてくれます。また後遺障害の認定に有利となる内容である書類を提出してくれます。
被害者請求にかかる被害者の負担が大幅に減り、適正な後遺障害の等級に認定される可能性も高くなるのですから、ぜひ弁護士に相談してください。
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