後遺障害等級の認定が受けられなかった場合や、想定していた等級よりも低い等級が認定された場合、自賠責保険に異議申立てができます。
後遺障害等級認定の異議申立てとは
後遺障害等級認定の異議申立てとはどのような制度なのでしょうか?まずはじめに、後遺障害等級認定や異議申立ての概要について解説します。
後遺障害等級認定とは
自動車損害賠償保障法施行令(自賠法)は、交通事故で残ってしまった症状のうち、後遺障害に該当するものの認定基準を定めています。後遺障害は、その種類や程度、部位などによって全14段階の等級に分類されており、1級に近づくほど重い症状が後遺障害として認定されます。
等級認定を受けるためには、医師に症状固定(治療を続けてもこれ以上症状の改善が見込めない状態)と診断された後に、所定の機関へ申請しなければなりません。その後、自賠責保険の「損害保険料率算出機構」というところで審査が行われ、認定基準を満たしているならば後遺障害の認定が受けられます。
必ずしも等級認定を受けられるわけではない
申請したからといって、必ずしも等級認定を受けられるわけではありません。また、想定していた等級よりも低い等級が認定される場合もあります。後遺障害等級の申請をしても、認定を受けられない理由としては、以下のものが考えられます。
後遺障害診断書の内容が不十分
症状固定の診断を受けると、担当医に後遺障害診断書を書いてもらうことになります。そして、等級認定の審査では、この診断書の内容をもとに認定の可否が決められます。
治療日数が足りていない
等級認定の決定において、事故から症状固定までにどのくらい通院していたかも重要視されます。なぜなら、一定のペースで通院していなければ、等級を認定するほどの症状ではないと考えられるからです。そのため、2週間や1ヶ月に1回しか通院していなかったという事例では、等級認定を受けられない可能性があります。
画像上で異常所見が確認できない
等級認定の判断材料には、レントゲンやMRIなどの画像検査の結果が含まれます。画像上で異常所見が認められない場合は、後遺障害等級は認定されにくいといえるでしょう。ただし、むちうちなどの神経障害では、画像検査で異常所見が確認できないことがよくあります。
結果に納得いかないときは異議申立てできる
納得のいかない結果に対して不服申立てを行いたい場合は、損害保険料率算出機構に書面で等級認定の再審査を求められます。この制度のことを「異議申立て」といい、うまくいけば納得のいく等級認定を受けられる可能性があります。
異議申立ての他には、「紛争処理申請」や「訴訟提起」でも等級の再認定を求められます。紛争処理申請では、弁護士や医師などで構成されている紛争処理委員会が調停を開き、専門家の観点から等級認定の妥当性を審査してくれます。
後遺障害等級認定の異議申立ての流れ
後遺障害等級認定の異議申立ての流れは以下の通りです。
異議申立ての方法について
異議申立ての方法には、「事前認定」と「被害者請求」の2種類があります。いずれの方法でも、自賠責から「異議申立書」を取り寄せて作成し、それぞれ保険会社に提出します。
事前認定
加害者側の任意保険会社を介して異議申立てをする方法です。相手方の任意保険会社に異議申立書を提出すれば、任意保険会社が残りの手続きを行ってくれます。相手方の任意保険会社に手続きを一任するので、被害者側に書類や資料を用意する手間がかからないのが特徴です。
被害者請求
被害者本人が自賠責保険に直接異議申立てをする方法です。被害者自らが自賠責保険に異議申立てすることから、書類や資料を揃える手間がかかります。その分、等級認定に有利な資料を選んで添付できるため、適切な等級が認定されやすくなります。
異議申立てにかかる期間
異議申立ての審査期間は、おおよそ2〜4ヶ月程度になります。実際には提出書類の準備期間も加算されるため、全体では3〜5ヶ月ほどかかることが想定されます。異議申立ての審査は、追加書類をもとに慎重に検討がなされるため、最初の審査よりも少し期間が長くなると考えておいてください。
異議申立書の必要書類
事前認定と被害者請求のどちらを利用する場合でも、自賠責保険から異議申立書を取り寄せて作成し、それぞれの保険会社に提出することになります。さらに、被害者請求を利用する場合は、被害者本人が以下の書類を用意する必要があります。
・担当医の意見書
・レントゲンやMRIなどの検査画像
・カルテ
・医療照会の回答書
後遺障害の認定を覆すためには、上記のように初回に提出していなかった新たな証拠を提出することが望ましいといえます。
異議申立てで有効となる医療照会とは
交通事故に遭遇した被害者が通院すると、病院にはカルテや検査結果などの資料がたまっていきます。そして、これらの記録を取り寄せたり、担当医に症状や所見に関する回答を文書で求めたりすることを「医療照会」といいます。
医療照会が行われる目的は様々です。任意保険会社が行うこともありますし、ときには弁護士が医療照会を行うこともあります。また、異議申立てを受けた審査会も医療照会を行う場合があります。特に、審査会は医療照会の回答を重要な資料として審査を行うため、医療照会がどのように回答するかが重要になります。
医師は治療の専門家ですので、被害者の治療経過について適切に答えることは可能です。しかし、いくら医師といっても等級認定基準まで熟知しているわけではありません。そのため、医師の回答によっては等級認定で不利になってしまうことがあります。例えば、医師が症状について「軽減している」「緩解している」と回答すると、「完治する見込みがある」という意味で解釈され、等級が認められないおそれがあります。これを防ぐためには、前もって担当医と打ち合わせしておくことが有効です。
例えば、審査会から医療照会を受けたときに、「症状は固定し寛解の見通しはない」「症状が長期にわたり継続、残存と思料する」と伝えてもらうように協力をあおぐことで、異議申立てを成功させやすくできます。
異議申立てを成功させるためのポイント
異議申立てには回数に制限がなく、損害賠償請求権の時効が完成するまでは何回でも申請できます。ただし、異議申立てが成功する確率は決して高くないため、入念な対策を練らなければなりません。ここからは、異議申立てをすることで気をつけることを解説します。
等級非該当になった理由を分析する
異議申立てを成功させるためには、初回の申請で「なぜ納得のいく等級が認定されなかったのか」という原因をしっかり分析しましょう。初回の等級認定の申請が認められなかったのは何らかの理由があるはずです。
時効に気をつける
等級認定の異議申立てに回数制限はありません。ですが、加害者に対する損害賠償請求権には消滅時効が設けられています。したがって、この時効が過ぎてしまうと賠償金が支払われなくなるおそれがあります。
損害賠償請求権の起算点(時効のカウントが開始するタイミング)や時効期間は個々の事例で異なります。それぞれのケースにおける時効の起算点や時効期間を以下の表にまとめましたので、参考にしてみてください。
被害者状況 | 時効の起算点 | 時効期間(人身事故) |
---|---|---|
加害者が判明している | 交通事故の発生日の翌日 | 5年 |
加害者が後から判明した | 加害者が判明した翌日 | 5年 |
ひき逃げで加害者がわからない | 交通事故の発生の翌日 | 20年 |
事故で後遺症が残った | 症状固定の翌日 | 5年 |
弁護士に相談する
一般の方が一人で異議申立て手続きをこなすのは難しいといえるでしょう。このとき、弁護士に依頼すれば、法律家の視点で等級認定基準を満たす資料を収集してくれます。また、審査会が医療照会をするときは、弁護士が事前に被害者の担当医に連絡し、医師の意向を正しく審査機関に伝えてもらうように打ち合わせしてくれます。
まとめ
後遺障害認定で異議申立てをすると、審査会が医療照会を行う場合があります。医師が後遺障害の等級認定基準まで詳しいわけではないため、医療照会で適切な回答ができないケースもあります。そのため、審査会が医療照会を行う前に、担当医と打ち合わせをする必要があります。
とはいっても、一般の方が、異議申立ての手続きや医師との打ち合わせをするのは大変なことです。弁護士に依頼すれば、これらの手続きを全て代理してくれるので、困ったときは一度相談してみてください。
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