交通事故の中でも被害者が亡くなる死亡事故では、加害者側から遺族に慰謝料を含む損害賠償金が支払われます。損害賠償金には、死亡慰謝料以外にも葬儀費用などの様々な費目が含まれています。
交通事故の死亡慰謝料は精神的な苦痛に支払われる賠償金
交通事故の死亡慰謝料とは、死亡事故により他界した被害者が受けた、精神的なショックを補償するための賠償金です。
交通事故で被害者が死去すると、残された遺族たちが受ける精神的ショックははかりしれません。そのため死亡事故では、遺族についても加害者に対する慰謝料請求が認められています。
死亡慰謝料は亡くなった本人分と遺族分がある
死亡事故の死亡慰謝料には、「被害者本人の慰謝料」と「近親者固有の慰謝料」の2種類があります。それぞれの内容を、詳しく解説します。
被害者本人の慰謝料
死亡事故の被害者は事故当時に受けた苦痛を金銭に換算し、加害者に対し慰謝料として請求できると認められています。しかし、被害者本人は既に他界しています。そこで、被害者の相続人が慰謝料請求権を獲得し、加害者に対して慰謝料を請求できるようになります。
近親者固有の慰謝料
死亡事故は親族が亡くなってしまうのですから、被害者の両親や配偶者といった遺族は大きなショックを受けます。遺族も精神的な苦痛を受けているわけですから、被害者本人の慰謝料とは独立した、固有の慰謝料請求権が認められます。
慰謝料の他に請求できるもの
死亡事故が発生すると、慰謝料以外にもさまざまな損害が発生します。葬儀にかかった費用や、入院や通院にかかった費用も、加害者に対し請求できます。
死亡逸失利益
逸失利益は死亡事故が起こったことで、本来被害者が得られるはずの労働収入を失ったことによる損害を意味します。被害者が亡くなると、それ以降は労働で収入を得られなくなるため、その分の損害の補填を加害者に求めることができるのです。
死亡逸失は、「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」の計算式で算出します。
基礎収入額は被害者の年収になります。サラリーマンなどの給与所得者はもちろん、自営業、家業従事者なども対象になります。また仕事をしていない幼児や学生、専業主婦(主夫)、高齢者でももらえる損害金です。
葬儀関係費用
葬儀費用は、死亡事故の被害者の通夜・告別式を行うにあたって必要になった費用を指します。請求できる費用の範囲は広いので、請求もれがないようにしましょう。
- 遺体の運送費
- 遺体の検案や修復にかかった費用
- 火葬料金
- 墓碑の建立費
- 仏壇や仏具の購入費
- 僧侶など宗教関係者に支払うお布施やお礼
死亡事故では以上のような費用を請求できますので、領収書などは処分しないようにしてください。一か所にまとめて保管しておくと、わかりやすいです。
入通院にかかる損害
事故が発生してから一定期間の入通院をした後に亡くなるような死亡事故もあります。入通院の際に発生した費用についても、加害者側に請求することができます。
具体的には、病院に支払ったケガの治療費や入院雑費、通院交通費などが請求可能です。また、入院や通院を強いられたことに対する精神的損害の補償として、入通院慰謝料の請求もできます。
弁護士費用相当額
弁護士費用は死亡事故による紛争解決を、弁護士に依頼したときに発生する料金です。示談交渉が決裂して民事裁判に移行すると、慰謝料や逸失利益などの賠償金に加えて、弁護士費用相当額(損害賠償額の10%程度)を請求できるようになります。
しかし、示談交渉の段階で弁護士費用に相当する額を請求しても、相手方の保険会社が支払いに合意してくれることはありません。慰謝料とは違い、訴訟を提起したときに限って請求可能になる費用です。
遅延損害金
遅延損害金は、返済期日までに金銭債務を履行しなかったときに発生する利息のようなものです。本来、交通事故の加害者は、事故発生日に慰謝料を含む損害賠償金を支払いしなければなりません。しかし、実際には慰謝料などのお金が支払われるまでにはタイムラグがあります。そのため、慰謝料などの賠償金が支払われるまでの期間に応じて、遅延損害金の請求ができます。
遅延損害金は、クレジットカードやローンなどの返済でよく使われる言葉です。ローンは返済期日が決まっていますが、期日を過ぎているのに支払いされないと、返済金額に遅延損害金を加算した金額が請求されます。つまり、支払いが期日通りに行われなかったときに課される、ペナルティのようなものと言えるでしょう。
交通事故の死亡慰謝料の相場や計算基準
死亡事故による慰謝料の相場は、1250万円〜2800万円になります。慰謝料の計算方法や家族内における被害者の立場によって、具体的な金額は変わってきます。
慰謝料の計算基準や、実際に死亡慰謝料を計算したときの例を紹介します。
死亡慰謝料の計算基準
死亡事故における慰謝料の計算基準には「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つがあります。どの基準が適用されるかで最終的な慰謝料の金額は大きく変わるため、それぞれの基準の内容を詳しく知っておきましょう。
自賠責基準
自賠責保険(共済)が用いる慰謝料の計算基準です。自賠責保険(共済)は、交通事故の被害者が最低限の補償を確保できるように、迅速かつ公平な保険金(共済金)等の支払いがなされます。
しかし、支払額は最低限に留まるため、3つの基準の中では慰謝料の受取額が最も低額になります。公開されている死亡事故における自賠責基準の計算方法は、次の通りになります。
被害者本人の死亡慰謝料 |
---|
400万円 |
近親者固有の死亡慰謝料 | |
---|---|
請求権者が1人の場合 | 550万円 |
請求権者が2人の場合 | 650万円 |
請求権者が3人の場合 | 750万円 |
被扶養者がいる場合 | 1名につき200万円が加算 |
なお、自賠責による保険金の支払限度額は、慰謝料や葬儀関係費、逸失利益などをすべて含めて3,000万円までとなっています。死亡事故に関する損害賠償金が3,000万円を超えた場合は、超過分を相手方の任意保険会社に請求することになります。
任意保険基準
加害者側が加入している任意保険会社が用いる慰謝料の計算基準です。各保険会社が独自に基準を設定しており、計算方法の詳細については外部に公開されていません。正確な金額を算出するのは難しいのですが、傾向としては、自賠責基準の慰謝料よりも若干高い金額が提示される程度と思って良いでしょう。
任意保険基準で計算したときの目安がありますので、参考にしてください。
被害者の家族内の立場 | 死亡慰謝料の目安 |
---|---|
家庭の生計を支えている | 1,500万円〜2,000万円 |
配偶者・専業主婦(主夫) | 1,300万円〜1,600万円 |
子ども・高齢者・その他 | 1,100万円〜1,500万円 |
弁護士基準(裁判基準)
過去の裁判例をもとにして設定されている慰謝料の計算基準です。弁護士や裁判所が実務で使用している基準であり、法的に適正な金額の慰謝料が支払われることになります。また、3つの基準の中で最も高額な慰謝料の計算基準となっています。
死亡事故の慰謝料を請求するなら、弁護士基準で算出するのがおすすめです。
弁護士基準で支払われる死亡事故の慰謝料の金額は以下の通りです。
被害者の家族内の立場 | 死亡慰謝料 |
---|---|
家庭の生計を支えている | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 2,500万円 |
子ども・高齢者・その他 | 2,000万円〜2,500万円 |
弁護士基準では任意保険基準と同様に、被害者本人と遺族の慰謝料を合算して取り扱います。金額を見てみると、他の基準よりも高額の死亡慰謝料が設定されています。
死亡事故における慰謝料の計算例
実際の死亡事故を例として、それぞれの基準でどのくらい死亡慰謝料の金額が変わるかを解説します。
計算例① 被害者が働き盛りの男性のケース
死亡事故の被害者はサラリーマンの男性で、遺族には専業主婦の妻と小学生の子どもだけがいるものとします。
自賠責基準では、被害者本人の死亡慰謝料は一括で400万円と定められています。近親者固有の慰謝料の請求権者は、妻と子どもの2人なので650万円になります。さらに、被害者には被扶養者が1名いるので、200万円が加算されます。
上記の金額を合わせると、自賠責基準では合計1,250万円が支払われます。
任意保険基準では、死亡した本人と遺族の慰謝料を合算し、まとめて金額を算定します。今回の事例では、被害者が家庭の生計を支えている者なので、1,500万円〜2,000万円の範囲で支払われます。
弁護士基準では、死亡した本人と遺族の慰謝料を合算して金額を算出します。今回の事例では、被害者が家庭の生計を支えている者なので、弁護士基準では2,800万円になります。
計算例② 被害者が高齢者のケース
交通事故の被害者は80歳の高齢者男性で、現在職に就いていないものとします。また、遺族は年収が130万円以上の成人の息子が2人います。この事例における死亡慰謝料をそれぞれの基準で計算してみてみましょう。
被害者本人の死亡慰謝料は一括で400万円になります。近親者固有の慰謝料は、請求権者が2名なので650万円です。今回の事例では、被害者に被扶養者がいないため、400万円+650万円=1,050万円が支払われます。
被害者が高齢者の場合は、1,100万円〜1,500万円の範囲で支払われます。この金額には、被害者本人と近親者固有の慰謝料が合算されています。ただし、任意保険会社次第では、上記の金額が変動する場合があります。
死亡した被害者が高齢者である場合、仕事をして家計を支えていた等の特段の事情がなければ、2,000万〜2,500万円の範囲で支払われます。任意保険基準と同様に、この金額には、被害者本人と近親者固有の慰謝料が合算されています。
交通事故の死亡慰謝料が増額されるケース
交通事故の慰謝料は精神的苦痛を補償するための金銭です。被害者や遺族の精神的ショックが増大する特別な事情があるときは、増額されることがあります。
事故態様が悪質である
加害者の事故態様が極めて悪質だった場合、慰謝料が増額するケースがあります。
- 無免許運転
- 酒酔い運転
- 著しいスピード違反
- 信号無視
- ひき逃げ(救護義務違反)
加害者の態度が不誠実である
交通事故のあとに加害者が目に余るような悪い態度を取っている場合、慰謝料が増額することがあります。
- 警察に虚偽の供述をした
- 逃走して証拠を隠蔽しようとした
- 示談交渉や裁判の場でも自らの過失を認めず、反省の色が見えない
加害者の態度によって遺族が精神的苦痛を受けたことを理由に、増額するケースはあります。
被害者側に特別な事情がある
交通事故の被害者側に特別な事情が、慰謝料の増額事由になることがあります。
- 妊婦の被害者が胎児と共に死亡した
- 精神的ショックにより遺族が精神疾患(PTSDなど)を発症した
- 精神的ショックにより遺族の学業などに影響が生じた
命の重みは平等ですが、特別な事情が考慮されることで、慰謝料が増額することはあります。
死亡慰謝料を請求できるのは被害者の遺族
交通事故において死亡慰謝料を請求できるのは、被害者本人と近親者固有の慰謝料、どちらも被害者の家族です。ただし、血が繋がっているからといって、誰でも対象になるわけではありません。
被害者本人の慰謝料を請求できる者
死亡事故の「被害者本人の慰謝料」は、被害者の法定相続人が請求できます。交通事故で被害者が亡くなると、第一に被害者本人が加害者に対する損害賠償請求権を取得します。しかし、被害者本人は既に他界しているため、法律で定められた相続人に損害賠償請求権が相続されます。
法定相続人となるのは、被害者の家族です。被害者に配偶者がいたときは、配偶者が常に相続人の1人となります。配偶者以外の血族の場合は、定められている優先順で法定相続人が決まります。
優先順位 | 血族の種類 |
---|---|
第一順位 | 子供(いない場合は孫) |
第二順位 | 両親(いない場合は祖父母) |
第三順位 | 兄弟姉妹(いない場合は甥・姪) |
先順位の者が1人でもいるときは、後順位の者は相続人になれません。被害者本人に配偶者、子どもがいれば、両親は相続人から外れることになります。
近親者固有の慰謝料を請求できる者
近親者固有の慰謝料は、被害者の両親、配偶者、子どもが請求できます。
民法711条で、近親者固有の慰謝料に該当する「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対して損害賠償しなければならない」と定められているためです。
被害者本人とは別に、近親者固有の慰謝料が認められているのは、被害者が死亡してしまった交通事故は本人だけではなく、遺族にも大きなダメージを与える交通事故であるためです。
近親者を亡くしてしまったのですから、大きな悲しみを受け辛い気持ちになるのは当然です。そこで、民法711条で、相続人以外の遺族の方にも、近親者固有の慰謝料請求権を認めているのです。
内縁関係や婚約者でも死亡慰謝料は認められる?
死亡事故の被害者と内縁関係にある者や婚約者であっても、法律婚と同程度の関係性であることが証明できれば、近親者固有の慰謝料を請求できます。具体的には、長年同居していた、被害者と扶養関係にあったなどの事情を証明できれば認められます。
近年はライフスタイルが多様化しています。婚姻はしていないけれども家族同然に暮らしているというケースは少なくなくありません。内縁関係でも賠償金を受け取れる可能性はありますので、あきらめずに示談交渉を進めてください。個人での対応が難しければ、弁護士に相談してみましょう。
交通事故の死亡慰謝料の請求から分配までの流れ
死亡事故による死亡慰謝料が分配されるまでの手順を詳しく解説します。
法要後に示談を開始する
死亡事故が発生してから示談交渉が開始するのは、四十九日に法要が過ぎてからになります。
交通事故の中でも、被害者が死亡する事故は遺族に多大な心痛を与えます。すぐに損害賠償請求の話し合いをするのは酷でしょう。また、損害賠償金には葬儀費用が含まれます。四十九日の法要までの葬儀費用は加害者に請求できるため、それまでは損害額が確定しにくいという問題があります。
そのため、示談開始までには、ある程度の時間的な余裕が発生します。
事故発生から示談開始までやるべきこと
死亡事故では被害者の法要が終わってから、示談交渉をはじめるのが一般的です。法要までにやっておくべきポイントを押さえておくと、示談交渉をスムーズに進められます。
- 死亡慰謝料を計算しておく
- 交通事故により発生した支出を確認しておく(治療費や葬儀費用などの領収書を用意する)
- 示談交渉の方法を決める(遺族で行うか弁護士に依頼するか)
交通事故の示談交渉は加害者の保険会社と行います。個人でも行えますが、被害者が死亡している事故は慰謝料を含む損害賠償金が高額になるため、お互いの意見がまとまらずもめることは少なくありません。交通事故の示談交渉に慣れている、弁護士に依頼するのが安心でしょう。
損害賠償の請求には時効がある
交通事故の被害者に認められている損害賠償金の請求権には、時効があります。
死亡事故では、死亡した日の翌日から5年と定められています。
また保険会社への交通事故による示談金請求には、3年という時効がある点に注意してください。示談交渉に時間がかかると、時効が近づいてしまうこともあります。
示談交渉を開始する
交通事故が発生すると、被害者と加害者との間で示談交渉という話し合いが行われます。
- どのような損害が発生したか
- 損害賠償金はいくらになるのか
- 支払い方法はどうするのか(分割払いの回数など)
交通事故の示談を成立させるには、当事者双方の合意が必要です。被害者と加害者がお互いの言い分に納得すれば、合意を交わすことで示談が成立します。
もし加害者側の主張に納得がいかないときは、被害者は提案を拒否できます。交渉が決裂すれば、最終手段として裁判に移行して決着をつけなければなりません。ただし、遺族の方が示談交渉や裁判に参加するとなると、多大な心労を負ったり、時間を取られてしまう可能性があります。
賠償金を分配する
交通事故における被害者本人の死亡慰謝料は、法定相続人が代わりに取得することになります。法定相続人が複数いる時は、以下のような法律で定められた遺産分割のルールに従って分配されます。
相続人 | 分配の割合 |
---|---|
配偶者と子ども(第一順位) | 配偶者;2分の1 子:2分の1 |
配偶者と親(第二順位) | 配偶者;3分の2 親:3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹(第三順位) | 配偶者;4分の3 兄弟姉妹:4分の1 |
両親、子ども、兄弟姉妹が複数人いる時は、その人数に応じて均等に分配されます。
例えば、死亡慰謝料が3,000万円で、配偶者と子どもが2人いるとすると、はじめに配偶者に2分の1の1,500万円を分配します。残りの1,500万円を2人の子どもに分配するため、2人の子どもは750万円ずつ取得することになります。
ちなみに、死亡事故で加害者から遺族が受け取れる死亡慰謝料には、相続税はかかりません。原則的に非課税となっていますので、所得税なども発生しないので安心してください。
ただ搭乗者傷害保険や自損事故保険の死亡保険金など、税金がかかるものが一部ありますので注意しましょう。
困ったときは弁護士への依頼がおすすめ
死亡事故の慰謝料を請求するには、加害者側の保険会社との示談交もしなければならず、法律の知識が必要になります。個人が完璧に対応するのは、非常に難しいでしょう。
交通事故の被害者になり困ったときは、弁護士に依頼するのがおすすめです。示談交渉で争ったときも適切なアドバイスしてくれますので、心強い味方になってくれます。また、弁護士であれば高額の弁護士基準で慰謝料請求してくれるため、慰謝料の金額を大幅に増やすことにもつながります。
まとめ
交通事故が発生すると被害者は加害者に慰謝料を請求できます。死亡事故では被害者の遺族が死亡慰謝料を請求することになりますが、家族を亡くしたことによるショックが大きく、すぐに示談交渉に参加できる状態ではないでしょう。また法律の知識がないと、適切な金額の慰謝料を受け取れない事態になることも多くあります。
死亡事故の慰謝料については、弁護士に一任するのがおすすめです。交通事故の事案解決が豊富な弁護士に依頼すれば、被害者側に有利な条件で示談をすすめてくれます。さらに高額になる弁護士基準を適用しての慰謝料を請求できるのもメリットです。
遺族の負担を軽減し高額の慰謝料を請求するためにも、弁護士への相談を検討してください。
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