「発信者情報開示請求」を行い、発信者を特定すると、民事上の不法行為に基づく損害賠償請求や場合によっては、刑事上の被害届や刑事告訴をすることがあります。
しかし、発信者を特定するためにはある程度の期間を要します。
発信者情報開示請求とは?
発信者情報開示請求とは、ネット上で権利侵害を受けた際に被害者が発信者の情報開示を求めることをいいます。
プロバイダ責任制限法4条1項(正式名称:「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)に規定され、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された者が開示請求できるとしています。
特定電気通信とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信を指します。プロバイダ責任制限法2条に規定されています。
具体的には、SNSやブログなどは、投稿する際に多数の者が閲覧できるので特定電気通信となります。電子メール等の1対1の通信は、対象とされていないようです。
発信者情報開示の要件
「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」と定義されています(プロバイダ責任制限法2条1号)。インターネット上のウェブサイトで行う、誰でも閲覧することができる情報発信のことを指しています。
「権利が侵害されたとする」とは、単に自らが被害を受けた旨を述べることで足りるとされています。
権利侵害が存在すること、および、仮に権利侵害が存在するとしてもその違法性を例外的に無くしてしまう事情が存在しないこと、をいいます。
発信者に対して損害賠償請求する民事上の責任を問う場合や刑事告訴するために発信者を特定する必要がある場合などが該当します。
開示関係役務提供者とは、特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者をいいます。たとえば、サーバーを提供している者、電子掲示板を管理している者、インターネットサービスプロバイダなどのことです。
投稿者の(氏名、住所、電話番号、メールアドレス、IPアドレス、SIMカード識別番号、タイムスタンプ等)をいいます。
発進情報の開示の対象となる情報は、開示関係役務提供者が「保有」するものでなくてはならない。
誹謗中傷による権利侵害の内容
・名誉毀損
事実の摘示によってする、公然と社会的評価を低下させるおそれのある行為
・侮辱
事実を摘示しないでする、公然と人を侮辱する行為
・プライバシー侵害
私生活など、他人にみだりに公開されたくない事柄を公にするなどの行為
・肖像権侵害
みだりに人の容貌等を撮影したり、公表したりする行為
発信者情報開示請求の対象
- 氏名又は名称
- 住所
- 電子メールアドレス
- IPアドレス
- SIMカード識別番号
- タイムスタンプ
- 発信者の電話番号
※IPアドレス(Internet Protocol Address)とは、ネットワーク通信に割り当てられるインターネット上の住所のようなものです。
※タイムスタンプ(timestamp)は、電子データに対して改ざんされていないことを証明するものです。
2020年8月31日に「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令の一部を改正する省令」が制定され、「携帯の電話番号」も開示対象に追加されました。
発信者の携帯の電話番号を特定できれば、弁護士照会によって発信者の氏名や住所などが確認できる可能性があります。このため、発信者情報開示請求が不要となるケースもあります。
発信者情報開示請求に必要な書類
- 発信者情報開示請求書
- 請求者の身分証のコピーなどの本人確認資料
- 被害者側と発信者側の証拠(書き込み等のプリントや写真、スクリーンショットなど)
発信者情報開示請求を行う方法
コンテンツプロバイダとインターネットプロバイダへの開示請求を行います。
コンテンツプロバイダとは、Webサイトなどのコンテンツを提供する事業者のことをいいます。インフォメーションプロバイダーとも呼ばれます。
発信者情報開示請求は、裁判による手続きでなくても可能です。(任意開示)
サイト管理者やサイトの専用フォームやメールフォームなどに対し、IPアドレス等を開示請求します。しかし、サイト管理者等は任意に開示することがほとんどありません。
インターネット掲示板などのサイト運営者等に対し、発信者情報の開示の仮処分を裁判所へ申し立てます。(民事保全法23条2項)。
仮処分では、被保全権利の存在、保全の必要性が要件となります。
発信者情報開示請求権のことです。コンテンツプロバイダが特定電気通信役務提供者であることの説明や、特定電気通信設備を保有していること等の主張、申立人に発信者情報開示請求権があることの主張疎明を行います。
保全の必要性
早急に決定が出ないと回復できないような損害が生じるおそれがあることを裁判所に伝えるための要件です。
具体的には、コンテンツプロバイダがログを保存している期間が3カ月~6カ月程度と短いため、早急にIPアドレスやタイムスタンプを開示してもらえないとログが消えてしまい、書き込みをした人物の特定ができなくなることを指摘することになります。
裁判官と債権者(開示請求する者)が面接を行い、その後、裁判官が債権者と債務者双方から言い分を聞きます。
裁判官が定めた額を一定の期間までに供託しなければなりません。供託金は原則、開示された後に返還されます。削除請求は30万円、開示請求は10万円が一般的です。
発信者情報開示の仮処分命令が発令されると、決定正本が交付されます。
裁判所に訴状を作成して裁判所に提出します。経由プロバイダ(コンテンツプロバイダ、インターネットプロバイダ)から答弁書などが送られてきます。
裁判の期日には、権利侵害が行われたかどうかなどの争点を整理します。権利侵害が認められれば、結審します。
このように発信者情報開示請求には、ある程度の時間や費用がかかります。
サイト管理者等やプロバイダがどの程度反論するのか、被害者側がどのように証拠を立証するのか、などといった主張によっても異なります。
情報開示までの期間は?
発信者情報の開示がされるまでの期間は、任意での開示と仮処分や訴訟になる開示で大きな違いがあります。
「任意の開示」の場合
「任意の開示」では、2~4週間などサイト管理者等の対応によっても異なります。
しかし、サイト管理者やサイトの専用フォームやメールフォームの削除依頼では対応してもらえるまでに時間がかかるケースがあります。
「発信者情報開示の仮処分命令申立て」の場合
「発信者情報開示の仮処分命令申立て」のケースでは、2週間~2か月程度かかるとされています。
「発信者情報開示請求訴訟」の場合
「発信者情報開示請求訴訟」を提起すると、6ヶ月から1年程度かかるとされています。サイト管理者等が権利侵害を認めない場合は、裁判が長引く可能性が高くなります。
民事上の損害賠償請求と合わせて刑事責任を追及する場合は、警察に被害届や告訴状を提出することになります。
民事上の不法行為による損害賠償請求は、消滅時効の規定があり、被害者又はその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅します。
損害賠償の金額は、個々の事案により異なります。著名人などの名誉を毀損すると、高額になるケースもあります。
一方、最近では、総務省が投稿者特定手続きを簡素化する制度案を示しました。さらに政府は、令和3年2月26日にプロバイダ責任制限法の改正案を閣議決定しました。
期間を踏まえ、どう行動したらいいのか?
誹謗中傷を行った相手を特定するため、発信者情報開示の手続きを行った場合、できるだけ早く開示請求を望むのであれば、確固たる証拠を準備しておく必要があります。
弁護士費用について
弁護士に依頼すると相談料、着手金、成功報酬、実費などの費用負担があります。
- 着手金とは、契約時に発生する費用です。
- 成功報酬は、発信者情報開示請求ができた場合や損害賠償請求などで得られた成果に対する費用を指します。
- 実費とは、交通費やコピー代、収入印紙代、郵便代など実際にかかった費用です。
まとめ
本記事では、インターネット上の誹謗中傷被害に遭った場合の発信者情報開示請求を行う方法や具体的な流れ、開示請求期間などについて解説しました。
実際には、裁判上の請求をして、発信者の特定を行うことがほとんどです。開示請求や民事・刑事で責任を追求する場合には、専門的な法律知識が必要です。
また、開示請求を行うには、多大な労力や時間がかかるのが現状です。1人で悩まず、まずは弁護士に相談することをおすすめします。