インターネットの誹謗中傷は法に訴えられる
インターネットでは他人を傷つける書き込みがしばしば見受けられます。このような誹謗中傷コメントをされた場合、法的な手続きを踏むことで犯人を訴えることができます。
ここからは、どのような罪で犯人を訴えられるか解説します。
名誉棄損罪(刑法230条)
公然と事実を摘示し、他人の名誉を傷つけることで、相手の社会的評価を下げた場合に成立する罪です。
「公然と事実を摘示」とは、不特又は多数人が知りうる状況で、具体性のある事実を発信することです。
例えば、Twitterなどの不特定多数が利用しているSNSで、「〇〇さんは不倫をしている」などの具体的な事実を拡散した場合、名誉毀損罪が成立することがあります。また、ここでいう事実の真偽は問われませんので、実際に不倫をしていたことを暴いた場合でも名誉毀損が成立します。
例えば、政治家のスキャンダルを週刊誌が掲載する場合や、報道機関が重大な犯罪を報道するケースでは名誉毀損が不成立になり得ます。
なぜなら、このような公共の利害に関わるケースでは、名誉を毀損された者の法益よりも、社会に真実を報道する価値が優先される可能性があるからです。
侮辱罪(刑法231条)
公然と他人を侮辱する発言をした場合、侮辱罪が成立します。名誉毀損罪と異なる点として、「事実の摘示」しなくても侮辱罪が成立します。
例えば、「バカ」「アホ」などの抽象的な悪口や、「チビ」「デブ」などの身体的特徴に関する誹謗中傷など、具体的な事実を伴わない悪口を言った場合は、この侮辱罪が成立することがあります。
業務妨害罪(刑法233、234条)
他人の業務を妨害したときに成立する犯罪です。業務妨害罪は、妨害の手段によって「偽計業務妨害罪」と「威力業務妨害罪」に分かれます。
偽計業務妨害罪は虚偽の情報を流すなどして業務を妨害したときに成立します。具体的には「あの店は品質管理をおこなっていない」などのデマを流す場合などがあげられます。
威力業務妨害罪は「威力」を使って相手の業務を妨害した場合に適用される犯罪です。「威力」とは「強い威勢を示す」ことであり、店内で大声を出して怒鳴ったり騒いだりしたときに威力業務妨害罪が成立する可能性があります。
誹謗中傷で訴える際にかかるお金
さて、誹謗中傷してきた犯人を訴える際にかかるお金としては、主に「訴訟費用」と「弁護士費用」があります。それぞれについて以下で説明していきます。
裁判をする際にかかる印紙代などのお金を指します。裁判手続きによる該当コメントの削除請求や、犯人を特定するための発信者情報開示請求をするときに訴訟費用が発生します。
弁護士に事件の解決を依頼したときにかかるお金です。弁護士に依頼しない場合は必要ないですが、裁判手続きは複雑かつ専門知識を要するため、個人で裁判を進めるのは現実的ではありません。
そのため、誹謗中傷に対して法的手段に出る場合は、弁護士に依頼することが一般的であり、その場合には弁護士費用が発生します。
弁護士費用には大きく分けて「着手金」と「報酬金」があります。着手金は、弁護士に事件を依頼したときに支払うお金で、報酬金は事件が終了した際に、成功の程度に応じて支払う費用です。
裁判手続きの種類と費用の相場
誹謗中傷されたときに利用することになる裁判手続きと、それに伴う費用の相場は以下の通りです。
ネット上に名誉が毀損された投稿が残っていると、その投稿が削除されない限り被害が拡大することになります。そのため、対象のサイトに該当する書き込みの削除申請をすることで、被害の拡大を防ぐ必要があります。
裁判外で対象サイトに削除申請することで、書き込みを削除してもらえるケースもあります。ただし、サイト側が対応してくれない場合は、裁判手続きによる削除請求を申し立てることで、裁判所から対象のサイトに削除命令を出してもらうことになります。
裁判を利用して削除請求をおこなう場合、訴訟費用(手数料としての印紙代や郵便代など)に数万円~数十万円かかります。
また、弁護士に削除請求を依頼する場合は、着手金に20~30万円ほど、報酬金に10~20万円ほどかかります。
匿名で誹謗中傷してきた犯人を訴える場合は、発信者情報開示請求によって犯人の身元を特定する必要があります。
開示の方法としては、裁判手続きを利用しない任意開示請求と裁判所への仮処分申請(正式な裁判をする前に、裁判に勝訴したときと同様の状態を確保してもらう手続き)があります。
しかし、任意開示請求については、個人情報保護の観点からサイトやプロバイダはほとんど対応してくれません。そこで、裁判所の仮処分申請手続きを利用することで、裁判所からサイトやプロバイダに対して発信者情報の開示命令を出してもらうことができます。
発信者情報開示請求を弁護士に依頼するときの費用は15万円から50万円ほどです。
裁判外での任意開示請求を依頼する際の弁護士費用は、着手金が5万円から10万円程度、成功報酬が10万円から20万円程度です。
裁判で開示請求の仮処分命令申立てを依頼する際の弁護士費用は、着手金が20万から30万円程度、成功報酬が10万円から20万円程度です。また、仮処分命令の場合、手数料の収入印紙、相手方への送達用の切手、命令発令のための担保金が必要です。
収入印紙は2,000円、送達用の切手は概ね1,000円前後(裁判所によって変動する)、担保金は10万円から30万円程度(事案によって個別に決定する)かかります。この担保金は、裁判所から担保取消決定を得たり、担保取戻しの許可を得たりすることで返還してもらえます。
誹謗中傷で訴えたらもらえるお金
誹謗中傷で訴えた場合、示談交渉によって示談金がもらえたり、裁判で勝つことで慰謝料がもらえたりします。誹謗中傷の加害者を訴えた場合にもらえるお金と相場は以下の通りです。
慰謝料を請求したときの相場
慰謝料とは誹謗中傷などで精神的損害を受けたときに、相手方に請求できる金銭を指します。慰謝料請求した場合の相場は、書き込まれた投稿の内容によって変動します。具体的な書き込み内容と請求できる相場は以下の通りです。
名誉毀損による慰謝料は、一般人の場合で10~50万円、事業主が名誉毀損を受けた場合は50~100万円が相場です。
名誉毀損は内容が真実であっても成立しますが、虚偽の内容で名誉毀損したほうが慰謝料の額が高くなる傾向にあります。
誹謗中傷の内容が、侮辱に該当する場合の慰謝料の相場は、10万円程度です。期間や頻度、内容の悪質さ、侮辱による被害の程度によっては、10万円以上の金額を請求できる可能性があります。
被害の度合いが大きい場合は、できるだけ証拠を残すことで相場以上の慰謝料を請求できる場合があります。
プライバシーの侵害とは、本人が秘密にしている個人情報や私生活の様子を暴く行為です。本人が希望していないのに、年収や住所などの情報をネット上で公開することはプライバシーの侵害に該当します。
プライバシーの侵害を含む誹謗中傷をされた場合の慰謝料の相場は10~50万円です。これはあくまで一般的な相場ですので、公開された情報や被害状況により金額が増減します。
示談交渉したときにもらえるお金
示談とは、裁判外の場所で当事者同士が話し合いによって、問題を解決することをいいます。示談交渉では主に示談金の内訳や金額について話をします。
示談金には上限がなく合意によって金額を決められるため、弁護士を通した示談交渉であれば、一般の方でも相場以上の慰謝料を獲得できるケースもありえます。
示談で解決することのメリットは、下記のとおりです。
- 費用が掛からないこと
- スムーズに進めば裁判よりも早期解決が期待できること
- 納得がいかなければ異議を唱えられること
一方で、示談交渉で加害者側に主導権を握られてしまうと、被害者側の主張があまり反映されないまま示談が成立してしまう可能性があります。
そのため、加害者側と交渉することに不安がある方は、示談交渉を弁護士に依頼するのがおすすめです。
まとめ
誹謗中傷の被害にあった場合、内容によっては罪に問うことができます。弁護士に事件を依頼する際は、費用が発生するため事前に確認しておきましょう。
書き込みの削除要求を依頼する場合は30万円から50万円が費用の相場になります。加えて、相手方の特定や賠償請求をする場合は、100万円以上の費用が発生する可能性があります。
このように、匿名に相手方に訴訟を起こそうとするとある程度の費用がかかります。しかし、訴えることで慰謝料などがもらえるので、誹謗中傷の被害にあったときは弁護士に依頼して対処することがおすすめです。