名誉毀損罪とは?
名誉毀損罪は刑法230条に規定されており、公然と事実を摘示し、他人の名誉を毀損すると、名誉毀損罪が成立します。
例えば、SNSなどで「〇〇は結婚しているのに、配偶者以外の異性と不倫している」と言いふらした場合、名誉毀損罪が成立し、刑事・民事上の責任を追及されるおそれがあります。
名誉毀損が認められる要件
名誉毀損の成立要件は、公然と事実を摘示し、他人の名誉を毀損することです。ここでは、「公然」「事実を摘示」「名誉を毀損」の意味がポイントになります。
「公然」とは、不特定または多数人の認識しうる状態を意味します。SNSの書き込みは、一部のダイレクトメッセージなどを除いて、様々の人が視認できる状態にあるので公然性が認められます。
なお、特定少数者に対してメールをした場合でも、不特定または多数人への伝播可能性がある場合は公然性が生じます。
「事実を摘示」とは、他人の社会的評価を下げるに足りる具体的事実を告げることを意味します。
事実は、真実であっても虚偽のものであっても構いません。すなわち、「〇〇は不倫している」と言いふらせば、たとえ不倫していることが真実でも「事実」に当たります。
「名誉」とは、自尊心などの主観的名誉(名誉感情)ではなく、世間から受ける外部的名誉(社会的評価)を意味します。
つまり、名誉感情を持たない幼児や法人であっても、名誉毀損の客体になります。
名誉毀損が認められないケース
刑法230条の2では、「公共の利害に関する場合の特例」を設けています。これは、表現の自由との調和の観点から、一定の要件下において名誉毀損罪の成立を否定する規定です。
例えば、政治家等の公的な職業についている者や、宗教団体や有名企業の幹部など社会的な影響力を及ぼす地位の者に対して、証拠をもって不祥事を告発するケースなどでは、名誉毀損罪の成立が否定される場合があります。
名誉毀損罪の成立が否定されるためには、以下の要件を全て満たす必要があります。
- 公共の利害に関する事実である
- もっぱら公益を図る目的である
- 真実性の証明がある
ただし、本人は真実性を確信していたにもかかわらず、結果的に真実性を証明するに至らなかった場合まで名誉毀損が成立すると、表現の自由が委縮するおそれがあります。
そこで、最高裁判決昭和44年6月25日は、
「事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当な理由があるときは、犯罪の故意がなく名誉毀損罪は成立しない」
と判示しました。
名誉毀損と侮辱の違い
侮辱罪は、事実を摘示しなくても、不特定多数が認識できる状態で、他人を侮辱した場合に成立します。「バカ」、「アホ」など具体的事実を伴わない表現、「チビ」「デブ」などの身体的特徴に関する暴言などが含まれます。
名誉棄損罪と侮辱罪の違いは「事実の摘示があるかどうか」です。しかし、どちらも「公然と」との規定があり、不特定多数の人が認識しうる状態で加害者の行為が行われる必要があります。
名誉棄損罪と認められた誹謗中傷の例
誹謗中傷が、名誉毀損罪とみなされた事例をいくつかみていきます。加害者に発生した責任の内容も記載するので、参考にしてみてください。
事件と無関係の人を、犯人の仲間としてSNSで拡散した事例
2019年に発生した常磐道の煽り運転殴打事件について、犯人の車の同乗者と勘違いされた女性がSNSで嫌がらせを受けた事例です。
事件に無関係な女性が犯人の同乗者と勘違いされた大きな要因として、元市議会議員であった人物が「同乗者の女」「早く逮捕されるように拡散してほしい」とFacebookで投稿したことが挙げられます。
このときのFacebookの投稿には、女性の実名や顔写真まで記載されていました。
野球選手の妻に対して、ネット上で誹謗中傷した事例
「そりゃこのブスが嫁ならキャバクラ行くわ」などの悪口が匿名掲示板で書き込まれたことを受けて、野球選手である夫が投稿者を訴えた事例です。
野球選手側は、掲示板管理者からIPアドレスを入手し、プロバイダに投稿者の個人情報の公開を求め、その結果、誹謗中傷を投稿した女性の特定ができたと考えられます。
自身の店がブログによって誹謗中傷された事例
A商店の代表者が、A商店を誹謗中傷してきたブログの運営者を訴えた事例です。
A商店は、ブログ運営者が住んでいるマンションの横を資材置き場としており、同場所にて産業廃棄物処理業をはじめました。これに猛反発したブログ運営者は、自身のブログでA商店の誹謗中傷を繰り返し、「A商店最期の日」と揶揄した題名の記事や、「作業中は舞い散る粉じん」「けたたましい重機の騒音」など被害の程度を誇張する内容の書き込みをおこないました。
結果としてA商店は事業を廃業せざるを得なくなります。
名誉毀損罪が成立した場合に負う責任
名誉毀損罪が成立すると民事・刑事上の責任が発生します。それぞれの責任の内容は以下の通りです。
刑事上の責任
告訴によって捜査が行われ、裁判で有罪が確定した場合、刑事上の責任が発生します。名誉毀損によって発生する刑事上の責任は、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金になります。
民事上の責任
民事上の不法行為責任が発生すると、損害賠償として金銭を支払う必要があります。
名誉毀損されたと感じたらするべきこと
SNSや匿名掲示板で名誉毀損の被害に遭ったと感じたときは迅速な対応をすることが重要です。なぜなら、一度SNSや掲示板などで情報が拡散してしまうと、被害者の名誉を取り戻せなくなるリスクがあるからです。
そのような事態に陥らないうちに、するべきことを早期におこないましょう。具体的な対策法は以下の通りです。
サイト運営者に書き込みの削除を求める
SNSや匿名掲示板で名誉毀損の被害に遭った場合は、サイト運営者に対して、該当する投稿の削除を求めましょう。
掲示板などが用意したフォームまたはテレサ書式で削除の依頼ができます。ただし、削除するかの判断はサイト運営者に委ねられるので、実際には削除されないことも多くあります。
削除されなかった場合は、サイト運営者に対して削除の仮処分命令を裁判所に申し立てます。仮処分命令は裁判手続きになるので、裁判官が判断するための証拠を提出する必要があります。
加害者を特定して法的責任追及する
匿名の発信者を名誉毀損で訴える場合、発信者の身元を特定する必要があります。
まず、SNSや掲示板などのサイト運営者に対して、投稿者のIPアドレスを開示するよう仮処分の申し立てをします。さらに、携帯のキャリアなどの接続事業者に対して、発信者情報開示請求をします。
この2回の手続きによって投稿者を特定したあとは、警察に対して告訴状を提出し、民事裁判にて損害賠償を請求していきます。
弁護士などの専門家に相談する
仮処分の申し立ても含めて、裁判手続きを進めるには法律に関する専門知識を要します。このように、個人で裁判を進めるのが大変と感じたときは、弁護士などの専門家に相談すると良いでしょう。
まとめ
今回は名誉毀損が成立するケースを、様々な具体例を挙げながら説明してきました。ネットを利用する機会が増えると、名誉毀損の被害に遭うリスクも高まります。
名誉毀損されたと感じたら、被害が拡大しないうちに対処しましょう。わからないことが多くて大変な場合は、弁護士などの専門家を頼ることで早期の解決を目指せます。