個人再生は、裁判所を通す必要があるため、手続きの流れや手続きにかかる時間などを正確に理解している方は少ないのではないでしょうか。
1 個人再生の手続きにかかる期間は?
個人再生は、裁判所を通す手続きであるため、任意整理に比べると、手続きが複雑になっています。そのため、現在では、弁護士に依頼するケースがほとんどです。
個人再生は、実際に返済を開始するまでの間に、以下のようなステップを踏むことになります。
(1)弁護士に相談
借金の整理について弁護士に相談することから始まります。
初回相談では、弁護士によって、借金の借入先や金額、収支状況、そして、財産の有無等の聴き取りが行われます。
弁護士は、この聴き取りから得た情報を基に、個人再生を利用できるかどうか、個人再生による解決が妥当かどうかなどを判断します。
弁護士に依頼することが決まると、弁護士は、受任通知を全債権者宛てに発送します。
受任通知では、債権額を届け出るよう記載するとともに、債務者との取引履歴を開示請求する旨も記載されることが一般的です。
債権者によって違いはありますが、取引履歴が開示されるまでには、受任通知の発送後およそ2ヶ月~3ヶ月以上かかることもあります。
弁護士は、債権者から開示された取引履歴に基づき、利息制限法所定の利率で引き直し計算を行います。
(2)申立て
個人再生の手続きを開始するには、裁判所に個人再生の申し立てをする必要があります。そのためには、申立書の作成をはじめ、提出時に必要となる多くの資料を揃えなければなりません。
すべての準備が整った段階で、裁判所に個人再生を申し立てることになります。
(3)手続き開始の決定
個人再生を申し立てると、裁判所によっては、個人再生委員が選任されます。
ここでいう「個人再生委員」とは、主に、手続き全般について監督するために、裁判所により選任される弁護士等で、東京地方裁判所では必ず選任されることになっています。
個人再生委員が選任される場合、個人再生委員は、申し立て後3週間以内に、手続きを開始すべきかどうかの意見書を裁判所に提出することになっています。
裁判所は、個人再生委員から提出された意見書等に基づき、問題がなければ、再生手続開始決定を出します。
(4)再生計画案の作成
再生手続開始決定後に行われる債権調査により、届出のあった債権額が確定すると、再生計画案を作成します。
ここでいう「再生計画案」とは、届出のあった債権額を基に大きく減額された借金について、支払方法などを定めた計画のことです。
東京地方裁判所においては、再生計画案の提出は、個人再生の申立て後およそ4ヶ月後とされています。再生計画案では、借金の返済期間が3年~5年(原則3年)となります。
(5)再生計画が認可
再生計画案が提出されると、裁判所は、個人再生委員の意見も参考にしながら、「再生計画が遂行される見込みがあるか」という観点から、認可・不認可を決定します。
認可決定が出るまでには、個人再生の申し立てからおよそ6ヶ月程度かかることが一般的です。
(6)支払いの開始
裁判所から再生計画案の認可決定が出ると、債務者は、再生計画案に従って、返済を開始することになります。
先に見たように、再生計画案で定める返済期間は、原則として3年間ですが、債務者が抱える事情などによっては、裁判所から許可を受けて最長で5年間とすることができます。
また、返済開始後に特別の事情により再生計画案に従った返済が難しくなった場合には、裁判所の許可を受けて、返済期間を最長で2年間延ばすことができます。
2 小規模個人再生の場合と給与所得者等再生の場合のちがい
個人再生は、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」という2つの手続きに分かれており、両者には違いがあります。
(1)小規模個人再生
「小規模個人再生」とは、借金の総額が5,000万円以下であり、将来にわたって継続的に安定した収入を得られる見込みのあることが手続きの利用条件となる手続きです。
なお、ここでいう借金の総額には、住宅ローンは含まれません。
小規模個人再生の場合、裁判所から認可決定を受けるための条件として、再生計画案への不同意が議決権者総数の半数を満たさず、かつ、その議決権の額が議決権者の議決権の総額の1/2を超えていないことが必要となります。
■議決権の額が議決権者の議決権の総額の1/2を超えていない
の2つの条件を満たすことが必要です。
(2)給与所得者等再生
「給与所得者等再生」とは、小規模個人再生の利用条件を満たしており、かつ、収入の変動が小さいことが利用条件となる手続です。
給与所得者等再生では、小規模個人再生の場合よりも返済額が高くなることが一般的ですが、小規模個人再生のように、裁判所から認可決定を受けるために必要となる条件はありません。
3 個人再生後にブラックリストに登録される期間は?
個人再生をすると、その旨がブラックリストに載ることになりますが、記録として残っている期間はどのくらいなのでしょうか。
(1)ブラックリストとは?
個人再生をすると、その事実が「事故情報」として信用情報機関に登録されます。いわゆる「ブラックリストに載る」というのは、このことを意味します。
ここでいう「信用情報機関」とは、信販会社やクレジットカード会社、消費者金融等そして銀行が加盟する機関のことをいい、JICC、CIC、そして、KSCの3つに分かれています。
ブラックリストに載ると、その間は、借り入れやクレジットカードの新規発行のための審査に通りにくくなります。また、クレジットカード類も使えなくなります。
(2)ブラックリスト入りの期間は?
ブラックリストに載ると、完済後およそ5年を超えない期間記録が残り、官報により掲載された情報は当該決定日から10年を超えない期間記録が残る(KSC(全国銀行個人信用情報センター)に限る)とされています。
このように、個人再生をすると、その旨がブラックリストに載り、完済後およそ5年間はブラックの状態が続くことになります。
4 個人再生のメリット・デメリット
個人再生には、以下のようなメリットやデメリットがあります。
(1)メリット
個人再生のメリットとしてまず挙げられるのは、債務額の減額幅が大きいという点です。
具体的には、借金額が100万円~500万円以下の場合は100万円、500万円~1,500万円以下の場合はその5分の1、1,500万円~3,000万円以下の場合は300万円、3,000万円~5,000万円以下の場合はその10分の1にまで借金が減額される可能性があります。
借金額 | 減額幅 |
---|---|
100万円以下 | 減額なし |
100万円~500万円以下 | 100万円まで |
500万円~1,500万円以下 | 借金額の5分の1まで |
1,500万円~3,000万円以下 | 300万円まで |
3,000万円~5,000万円以下 | 借金額の10分の1まで |
また、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用することにより、住宅を残すことができるというメリットもあります。
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を使った再生計画案が認可されると、住宅ローンを除く他の借金が大幅に減額されるため、従来よりも月々の返済額を低く抑えることが可能になり、それまで通り住宅ローンを支払っていくことができます。
(2)デメリット
繰り返しになりますが、個人再生は、裁判所を利用する手続きです。
そのため、申立前の事前準備から再生計画案について認可を受けるまでの間に対応すべきことが数多くあります。
このように、個人で対応するには、再生計画案の策定をはじめ、難易度の高い手続きであるというデメリットがあります。
また、先に見たとおり、個人再生をすると、ブラックリストに載るということもデメリットの一つです。ブラックリストに載っている期間は、経済的な信用を失うため、借り入れをしたり、クレジットカードの発行を受けることが難しくなります。
さらに、個人再生をすると、名前や住所といった情報が官報という国が発行する新聞のようなものに掲載されることになります。
もっとも、日常的に官報をチェックしているのは、ごく一部の人に限られているため、官報によって個人再生をしたことがバレるということは、ほとんどないといっていいでしょう。
その意味では、デメリットと言えるほどのことではないかもしれません。
最後に、個人再生をすると、保証人に影響が出てしまうというデメリットがあります。
個人再生をすると、債務者の借金は大きく減額されますが、その減額の効果は保証人には及びません。そのため、債権者は、債務者が個人再生をすると、保証人に全額を請求する可能性があります。
5 まとめ
個人再生を選択する際には、手続きによるメリット・デメリットを踏まえたうえで、さまざまな観点から利用するかどうかを判断が必要で、簡単なことではありません。
判断を誤ると、再生計画案が不認可となったり、返済の途中で自己破産への切り替えを余儀なくされるなど、個人再生を選択した意味がなくなってしまいます。