法人破産をしたら代表者は自己破産をする必要がある?

「会社の破産と、個人の破産はどう違うの?」
「経営する会社が破産したら、代表者である自分が借金を払う必要があるのだろうか」

会社経営をされている方で、こんな疑問を感じている方もいるでしょう。

結論としては、法人破産すると会社は消滅しますが、代表者が弁済する義務はありません。
ただし、例外や注意事項もあります。

この記事では、法人破産の基礎的な知識や、注意するべき点などの基本的な情報を解説します。

会社の破産と個人の破産の違いについても解説していきます!

法人・会社が破産をしたら、借金は誰が支払う?

先に述べたように、法人破産をしても代表者が弁済する義務はありません。
法人・会社の借金は、その法人・会社が払うのです。

では、どのような流れで手続きするのでしょうか。

法人・会社が破産手続きをするには、裁判所に申し立てが必要です。
裁判所が「破産法の要件を満たす」と判断すると、破産手続き決定が下され、破産管財人が選出されます。

その破産管財人が、法人・会社の資産状況を調べ、資産があれば債権者へ財産を配分し、破産手続きが終了します。
この手続きが完了すると、会社は消滅します。

破産手続き完了時点で、法人・会社の資産よりも借入れが多かった場合、債務は残りますが、支払うべき法人・会社は消滅しているため、結果的に借金が免除されるということになります。

また、法律上「法人・会社」と「代表者個人」は、まったくの別人格とされるため、
会社が消滅したことで結果的に免除になった借金を、代表者個人が返済する必要もありません。

もう少し詳しくみていきましょう。

法人の借金は代表者のものではない

会社にはいくつか種類があります。
例えば、株式会社、有限会社、社団法人、財団法人、NPO法人・・・など。

これらは法人の1種であり、法律上「人」とされ、様々な権利や義務を追うことになります。
法人の財産や債務は、法人のもの。
ですから、代表者であっても法人の借金を負う義務がないのです。

代表者が借金を負うケース

法人である会社と、代表者個人は法律上別人なので、会社の借金を代表者が払う義務はありません。
しかし、いくつか例外的に代表者が会社の借金を負うケースがあります。
例えば、こんなケースです。

  1. 代表者が連帯保証人となっている
  2. 代表者に損害賠償責任がある
  3. 代表者が会社に借金している

①代表者が連帯保証人となっているケース

代表者個人が、法人・会社の借入れの連帯保証人になっている場合は、法人・会社の債務を返済しなくてはなりません。
中小企業の会社が金融機関から借入れをする際、代表者個人が連帯保証人となるケースはよくある話です。

連帯保証人は、債務者が返済しない場合に、債務者に代わって借金返済を約束するので、返済の義務があります。

法人・会社が破産により消滅すると、資産が換金され債権者に支払われます。
資産よりも借入額が大きかった場合の差額を、連帯保証人である代表者個人の資産から支払わなくてはいけません。

例えば、法人・会社の借入額が3,000万円、代表者個人の資産が2,000万円だった場合、差額の1,000万円が代表者個人の債務となってしまうのです。

②代表者に損害賠償責任があるケース

代表者が会社の財産を私的流用していたり、明らかに回収の見込みがない債権を、それと知りながら買い取っているなど、明らかに健全でない経営判断をしている代表者の場合は、損害賠償責任があると判断されるケースがあります。

様々な意思決定をする会社の代表者は、経営を会社から任された者として、善良な経営判断や誠実な経営を行うことが期待されます。
法律上、これを「善管注意義務」と呼びます。

合わせて、代表者には「忠実義務」も定められています。
これは、善管注意義務を会社代表者・代表取締役の法的義務として具体化したものです。

どちらも、会社から経営を任されたものとして、会社のために誠実・忠実に職務を遂行しなくてはならない法的義務で、実務的にはほとんど同一のものとして扱われているといってよいでしょう。

単に経営に失敗し、法人・会社が破産してしまったという場合は損害賠償責任を負うことにはなりません。
しかし、上記のように健全な法的義務を果たしていないと判断された場合、破産管財人から損害賠償を請求されてしまいます。

③代表者が会社に借金をしているケース

代表者個人が、会社に借入金がある場合、会社が破産により消滅しても、借金を返さなくてはなりません。

特に中小規模の会社だと、代表者が個人のお金を会社のお金として使う(=役員借入金)というのはよく聞く話です。
逆に、会社のお金を個人のお金として使う(=役員貸付金)という話もよくあります。

会社の創業者からみれば、会社は自分の分身のようなもの。
特に中小規模の会社だと、会社のお金と代表者個人のお金は一緒という感覚になる方も多いでしょう。

とはいえ、先に述べたように法律上、法人・会社と代表者個人は別人として認識されます。
ですから、代表者が会社に借金をしている場合は、会社に返済する義務があるのです。

法人破産と自己破産の違い

法人・会社の破産と、個人の破産(自己破産)の違いは、大きく3つあげられます。

  • 残せる財産の違い
  • 免責と残る債務の違い
  • 破産手続き費用の違い

具体的にどのような違いがあるのか、みていきましょう。

法人破産と個人の自己破産、残せる財産の違い

法人・会社は、破産すると会社名義の預貯金、土地や建物などの不動産、売掛金などはすべて換金され、手元に一切残りません。
逆に自己破産の場合は、すべての財産を失うわけではありません。

自己破産した人がその後きちんと生活できるよう、生活に最低限必要な財産については処分対象からはずれるのです。

この「生活に最低限必要と認められた財産」を「自由財産」といいます。

例えば、以下のようなものが自由財産としてあげられます。

自由財産にあたるもの
・衣服、寝具、家具、台所用品などの生活に必要な道具
・一ヶ月に必要な食料や燃料
・標準的な世帯の二ヶ月間の必要生計費(政令で認められた金額内)
・農業、水産業を営むにあたり必要な道具

破産手続きをすると、法人・会社であっても、個人であっても、資産を精算し債権者に返済することになります。
法人・会社は破産により消滅し、債務も含めて手元に何も残らないということを抑えておきましょう。

免責と残る債務の違い

法人の破産と、個人の破産の大きな違いは、「免責」という制度の有無といえるでしょう。

免責は、単に「債務の支払いをしなくてよくなる」という意味もありますが、ここでは「(裁判所の免責許可決定によって)債務の支払義務を免除してもらう制度」を指します。

法人・会社でも、個人でも「破産」という手続きは、「借金の支払いが難しくなったときの、最後の法的手続き」であり、「債務の支払いがなくなる」という点は共通しています。

法人・会社は、破産すると会社自体が消滅します。
同時に、支払えなかった債務も消滅するため、法的に免責する必要がありません。

一方で個人は、破産手続きをしても個人が消滅するわけではないため、法的に免責が必要となります。
そして、破産したとしても特定の債務については免責されず、破産後も返済が必要になる債務があります。
これを「非免責債権」といいます。

代表的な非免責債権は、下記のとおりです。

免責が認められないもの
・税金(所得税、相続税、国民健康保険料など)
・慰謝料(破産者が悪意で加えた不法行為に対する損害賠償)
・養育費
・従業員の給料(個人事業主の場合)
・罰金

これらは自己破産をしても免責にはならないため、破産後も返済が必要です。

個人が自己破産した場合は、上記のように非免責債権が残り、法人・会社は破産すると債務ごと会社が消滅するため、残る債務はないという違いを抑えておきましょう。

破産手続き費用の違い

破産を検討しているのであれば、手続きに関わる費用も気になりますね。

一般的に法人・会社破産手続きと、個人の自己破産費用では、より複雑な手続きを要する法人・会社破産手続き費用の方が高額になります。

個人であれば、法人と比べ債権者の人数も、取り扱い金額も低くなります。

その一方、法人・会社は、複数の取引先とのやりとりで売掛金・買掛金(仕入れや、商品を売買したときに後払いにする・されるお金)があったり、管理する資産の種類が多い傾向があります。
また、取り扱う金額も会社規模次第では億を超えるケースもあるでしょう。

このように、規模や金額、関わる人数が多くなるほど、裁判所や弁護士に支払う費用が高くなります。

破産手続きに関わる費用は、主にこの3つです。

  1. 裁判所へ納める予納金
  2. 弁護士費用
  3. その他実費

予納金とは、破産申し立て人が裁判所へ申立てを行う際に発生する手続き費用のことで、これを納めるまで、裁判所は破産手続き開始決定を出してくれません。

弁護士費用は、主に着手金(結果にかかわらず、弁護士へ依頼した時点で発生する費用)と
報酬金(事件が解決した際に発生する弁護士費用)を指します。

その他実費とは、申立て準備に必要な書類代、登記情報の取得代などを指します。

取り扱い金額、弁護士事務所により金額は異なりますが、相場感としては図のとおりです。

法人・会社

個人

予納金

60万円〜

20万円〜

弁護士費用

50万円〜

30万円〜

合計

110万円〜

50万円〜

前述のとおり、取り扱い金額や規模により金額が異なります。
必要な費用を、すぐに準備できないケースもあるでしょう。

弁護士事務所によっては、無料相談を設けているところもあります。
そういった制度を使って、破産の際いくら費用がかかるかを見積もっておくとよいでしょう。

法人については最低金額の目安となります!詳しくは専門家に直接尋ねてみましょう。

法人と代表者が同時に破産したらどうなる?

先述であげた、法人・会社の借入時に代表者個人が連帯保証人になっているケースだと、会社の借金を代表の資産から支払う必要があります。
しかし、個人の資産でも返済しきれない場合は、自己破産という選択肢も入ってくるでしょう。

では法人・会社と、個人が同時に破産すると、どうなるのでしょうか?

免責を得られば返済の義務はなくなる

連帯保証人は、原則として債務額を一括返済しなくてはなりません。
代表者個人が自己破産する際、裁判所による免責が認められれば返済する義務はなくなりますから、法人・会社の債務が個人の資産よりも大きい場合、会社破産と同時に代表者個人も自己破産を検討してもよいでしょう。

もし法人・会社と、代表者個人の自己破産を別々に進めると、それぞれで破産費用が発生してしまいます。
余分な費用を発生させないためにも、法人・会社破産を検討する際は、代表者自身にどのような影響があるかしっかり確認しましょう。

自由財産は保持できる

仮に代表者個人も自己破産をした場合でも、個人が生活していく上で最低限の財産、いわゆる自由財産は保証されています。
法人・会社破産により会社は消滅しますが、個人の自由財産は手元に残るのでやり直しが効くのです。

法人・会社破産する際の注意点

法人・会社破産をする際、会社の資産を減らしたり、会社の資産を個人に移す・・・という話もありますが、これらは違法行為とみなされる可能性があります。
会社の規模に関わらず、会社の資産と個人の資産は別物として管理しておくことが重要です。

以下で、やってはいけない行為を確認して、違法とならないように注意しましょう。

会社の財産を私物にしない

会社の経費で購入した備品を個人の名義に変えて使う行為は、違法とみなされる可能性があります。
確かに代表者から見れば自身の会社の備品をそのまま使い続けたい、という気持ちもあるでしょう。

ただしそういった行為は、「意図的に財産を隠した」という詐欺行為と判断されてしまう可能性があります。
もし会社の備品を個人の名義で利用し続けたい場合は、事前に弁護士などの法律のプロに相談し、違法行為とみなされないかなどのアドバイスをもらうとよいでしょう。

特定の借金だけを返済しない

法人・会社を経営する中で、金額の大小問わず、借入先が複数になることもあるでしょう。
破産申し立てをする時は、債権者すべてを平等に扱い、平等に返済していきます。

「ここの社長にはお世話になったから、先に返そう。他の借入れ先よりも多く返そう。」といったように、優劣をつけることはできません。

ただし、債権の中でも法的に優先しなくてはならないものもあります。
例えば、元従業員の未払い給料は優先的に支払う必要があり、他の債権と取り扱いが異なるのです。

そういった法的に定められたもの以外を、自分の裁量で優劣をつけることはできないので、注意が必要です。

まとめ:法人破産をしても代表者は弁済義務がない。しかし例外もあるため、法人破産検討時点で弁護士や司法書士に相談しよう。

法律上、法人・会社と、代表者個人は別人とみなされるため、法人破産しても代表者の弁済義務はありません。
しかし、例外として以下のパターンだと代表者が返済する必要があります。

  1. 代表者が連帯保証人となっている
  2. 代表者に損害賠償責任がある
  3. 代表者が会社に借金している

特に中小企業が融資を受ける際、代表者が連帯保証人となっているケースは非常に多いです。
連帯保証人になっていると、債務者である会社が破産すると原則一括払いで弁済しなくてはなりません。

代表者個人の資産から返済できない場合は、会社と同時に代表者の自己破産を検討することになるでしょう。
法人・会社破産では、会社と債務が消滅する代わりに資産も一切残すことができませんが、自己破産であれば生活に最低限必要な財産は手元に残ります。

もし法人・会社破産を検討している場合は、代表者個人の破産も検討した方がよいのか、どういったことをすると違法行為とみなされてしまうのかなど、法律のプロに相談しながら進めるとよいでしょう。

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