名誉毀損とは?
名誉毀損とは、相手の信用を下げることを言いふらして、相手の社会的地位を貶めることです。名誉毀損が認められると法律上の責任を問われます。
ここからは、名誉毀損が認められるための要件や、民事または刑事で発生する責任について説明します。
名誉毀損が認められる要件
名誉毀損は、「公然と事実を摘示して、人の名誉を毀損する」場合に成立するものです。
ここでは「公然」「事実を摘示」「人の名誉を毀損」の意味がポイントになるため、それぞれの言葉の意味を詳しく説明します。
「公然」とは、たくさんの人たちが見たり聞いたりできる状態を意味します。
例えば、インターネットの掲示板やメルマガ、メーリングリスト等は、それらを利用する人であれば誰でも見れるため、公然性があります。
なお、特定の人への個別メールは、基本的に送信された者しか見れませんが、手紙と違って転送が容易であるという特徴があります。
「事実を摘示」とは、真実であるか否かにかかわらず、具体性のある事実を示すことを意味します。
例えば、「部長は部下にセクハラしている」という発言があった場合、セクハラという行為が具体性のある言動になります。一方で、「部長の仕草が不快である」といった発言については、その仕草が不快と感じるかは個人の主観ですので、ここにいう具体的な言動には当たりません。
では、「セクハラをしている」という情報が本当であれば、罪は成立しないのでしょうか。この点、発言が真実であるかは問題にならず、たとえ発言内容に間違がなくても、相手の信用を下げる発言を言いふらせば、名誉毀損が認められます。
名誉毀損は、「人の名誉」が傷つけられた際に成立します。
ここにいう「人」とは、一般的な自然人だけでなく、法人なども含まれます。その「人」とは、具体的に誰であるか知れ渡っている必要があり、誰に関するものか不明な場合は名誉毀損に当たりません。
次に、「名誉」とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける外部的名誉(客観的評価)を意味します。一方で、プライドなどの名誉感情(主観的評価)は、保護対象に含まれません。
名誉毀損が認められない場合
上に挙げた要件に当てはまる場合でも、表現の自由との調和の観点から、名誉毀損の成立が否定されることがあります。
例えば、政治家や企業による不正に関わる情報は、公正な社会を実現するためにきちんと社会に知れ渡らなければなりません。このように、刑法230条の2は、社会への影響力が強い事実が拡散された場合については、名誉毀損の成立を否定することを規定しています。
ここからは、名誉毀損の成立が否定されるために必要な要件をそれぞれ説明します。
公共性とは、多くの人の社会的利害に関係し、かつその事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められる性格を意味します。
例えば、政治家の汚職などの事実は、有権者が知ることで、その人に投票するか否かの判断材料にすることができるため、公共性があるといえます。
公益目的とは、情報を公開する目的が公の利益を図るためということです。裁判では、公共性があると判断された場合、特段の事情がない限り、公益目的もあると推認されます。
ただし、公の利益を図るためではなく私怨や復習目的の場合は、公共性がある場合でも公益性が否定されます。
発信した情報が虚偽である場合は、たとえ社会を良くしようとする目的があっても、原則として名誉毀損の成立は免れません。
名誉毀損によって問われる責任
名誉毀損が認められると、民事・刑事で法的な責任を追及されます。民事では、損害賠償責任や慰謝料請求を根拠づける不法行為が成立します。
刑事では、刑法240条の名誉毀損罪が成立し、3年以下の懲役刑もしくは禁錮刑、または50万円以下の罰金に処せられます。
侮辱罪との違い
名誉毀損罪と類似した犯罪に「侮辱罪」があります。侮辱罪は、他人に侮辱的な発言をした際に科せられます。では、両者の相違点はどのようなものでしょうか。それぞれ異なる点についてそれぞれ説明します。
名誉毀損は、「あの人は上司と不倫している」など、具体的事実に言及する必要があります。一方で、侮辱は「バカ」「ブス」など、具体的な事実を伴わない抽象的な悪口をした際に成立します。
名誉毀損を犯すと「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」に科せられます。一方で、侮辱を犯した場合の罰則は「拘留または科料」のみとなっており、刑法の中でも最も軽い法定刑になっています。
また、民事訴訟の慰謝料請求額についても、侮辱の方が名誉毀損よりもはるかに安値になります。
職場での悪口は名誉毀損になる?
職場の悪口といってもその種類はさまざまです。酒席でこぼす他愛のない愚痴から、ネット掲示板への書き込みなど悪口の多様は多岐に渡ります。
ストレス発散の愚痴程度なら問題ありませんが、根拠なく相手を貶めたり、職場や社会に広く伝播することを狙った悪口は、職場で懲戒処分の対象となるだけではなく、民事訴訟や刑事罰に発展する場合もあります。
職場の悪口が名誉毀損と認められた判例・事例
職場の悪口が名誉毀損罪として認められるのはどのようなシチュエーションでしょうか。この点、少数の飲み会で愚痴をこぼし合う程度では、公然性がなく名誉毀損は成立しません。
ただし、SNSで社員の悪口を書き込んだ場合は、多くの人に見られる可能性があるため、名誉毀損が成立する場合があります。では、メールのように、あくまで1対1の連絡手段の場合ではどうでしょうか?実際の判例を確認しましょう。
メールでの名誉毀損事例として、「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SC(サービスセンター)にとっても会社にとっても損失そのものです。」「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。」等のメールが、職場の上司から本人および十数名に送付されたという事例があります。
裁判所の判例では、名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかであり、民事上の不法行為を構成するとしています。
職場で名誉毀損にあたる悪口を言われたらどうする?
職場で名誉毀損にあたる悪口を言われた場合、どのように対処すれば良いでしょうか。対処法について順を追って説明します。
個人を特定する
まず、噂の発信源になっている個人を特定する必要があります。証拠になるような録音データなどが入手したり、噂を聞いたという人に証言を求めたりすることで、個人を特定できる証拠となりえます。
上司などに相談してみる
相談できるような上司や同僚がいるならば、まずは今の被害について相談してみるのが得策です。上司から加害者に注意してくれる場合もありますし、噂話がデマであることを説明することで、社員同士の誤解を解くこともできます。
法テラスなどで無料相談を受ける
相手を訴えるにしても、民事で訴えた方がいいのか、刑事告訴した方がいいのか判断がつかない人も多いと思います。まずは、弁護士に相談するのがいいのですが、相談料がかかる事務所よりは、無料相談可能な事務所を探すほうがよいでしょう。
法テラスでは、法律専門のアドバイザーである弁護士が相談を受けてくれるので、民事と刑事のどちらの方向で訴えるべきか、訴訟によって得らえる自分のメリットは何かなどを確認してから次のステップにすすみましょう。
弁護士に相談する
民事事件で慰謝料を請求する場合は、弁護士に依頼します。弁護士に依頼する場合は、費用がかかりますので、訴訟に勝てる見込みや、賠償金を請求するならばどのくらい受け取ることができるかについても確認しておくと良いでしょう。
警察に告訴状を提出する
相手を刑事罰で処分して欲しいのであれば、警察に告訴状を提出します。被害届でもいいのですが、被害届は警察に対して被害があったことを報告するものになり、事件性があって捜査が必要なのかは警察が判断することになります。
告訴状であれば、一部例外をのぞいて、警察は受理をしなければなりません。その後検察庁に送検された後に立件するのかは検察の判断になりますので、捜査はしてもらえますが、必ず立件されるとは限りません。
職場で名誉毀損の加害者にならないために
職場では、名誉毀損の加害者にも被害者にもなる可能性があります。仕事する環境では、多くの人が自分のタスクに追われているため、気が立ってしまうこともあると思います。ですが、そのときの感情に任せて他人を罵ってしまうと、後から裁判沙汰になるケースもあります。
まとめ
職場で悪口をしてしまうと、要件を満たしている場合は名誉毀損になります。
また、実際に名誉毀損となった判例や事例もあります。職場で名誉毀損となる悪口を言われたときは、落ち着いて対処法を考えましょう。
職場では名誉毀損の加害者にも被害者にもなる可能性があります。不特定多数の前で他の人のことを悪く言うのは避けましょう。