発信者情報開示請求をした後の仮処分とは?
仮処分とは、正式な裁判の前に、債権者からの申立てにより、民事保全法に基づき裁判所が決定する暫定的処置で、裁判に勝訴した時と同様の状態を確保するものです。
この仮処分を用いて、書き込みが行われたインターネット掲示板などのサイト運営者等へ情報開示請求をしたり、経由プロバイダ(ISP[携帯のキャリアなど])に対してアクセス記録の削除を禁止したりすることができます。
仮処分を求める理由とは
通常の民事訴訟でも、インターネット掲示板などのサイト運営者等に情報開示請求はできますが、訴訟手続きはそれなりの時間を要するため、判決が出ても経由プロバイダ(ISP[携帯のキャリアなど])に対する請求をする頃には、発信者の情報は消えてしまって請求できないこともあり得ます。
そのため、サイト運営者等に対して、仮処分の手続きを取ることがほとんどです。仮処分は通常、2週間から2か月程度と判決より早く結果が出るのが特徴です。
また、経由プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟を提起しても、判決までに6か月~1年程度かかりますが、経由プロバイダのログの保存期間は約3~6か月ということが多く、判決が出るまでにログが消えてしまって、情報開示を認める判決が出ても無意味になってしまいます。
仮処分の効力は?
仮処分命令であっても、裁判所の決定に基づくものですから、法的な効力をもっています。しかし、仮処分はあくまで仮の決定ですから、本訴で決定が覆されることもあります。
ただし、プロバイダが争って、訴訟になることはほとんどありません。仮処分が認められたら、本訴をしないのが通常です。
仮処分を認めてもらう2つの要件とは?
仮処分が認められるためには、
- 被保全権利の存在
- 保全の必要性
この2つの要件を満たす必要があります。
①被保全権利の存在
ここで、発信者情報開示請求権が存在することの主張を行います。
具体的には、誹謗中傷を内容とする投稿があったこと、コンテンツプロバイダが特定電気通信役務提供者であることの説明や、特定電気通信設備を保有していること等の主張疎明を行います。
②保全の必要性
早急に決定が出ないと回復できないような損害が生じるおそれがあることを裁判所に伝えるための要件です。
具体的には、コンテンツプロバイダがログを保存している期間が3カ月~6カ月程度と短いため、早急にIPアドレスやタイムスタンプを開示してもらえないとログが消えてしまい、書き込みをした人物の特定ができなくなることを指摘することになります。
仮処分の申立てをした場合の流れ
仮処分の申立てをした場合、その後の流れはどのようなものになるでしょうか。
1、債権者面接、審尋期日
東京地裁では必ず債権者面接が行われます。また、相手方が立ち会うことができる審尋期日が定められ、双方審尋が行われます。
2、担保決定と供託
裁判所が仮処分を認める方針の場合、まず担保決定がなされて決められた金額を供託金として納める必要があります。供託金の額は事案によって異なりますが、発信者情報開示の仮処分は10万円~30万円となることが多いです。
3、仮処分発令
法務局で供託を行って、供託書を裁判所に提出すると、仮処分が発令されます。このとき、裁判所は相手方に決定正本を送達します。
4-1、仮処分による情報開示の場合
仮処分の決定をもとに決定正本の写しを提示して情報の開示を求めます。サイト管理者が開示に応じれば、投稿者のIPアドレスが判明するので、これをもとにプロバイダ特定を行い、経由プロバイダ(ISP[携帯のキャリアなど])に対する情報開示請求を実施します。
4-2、ISP[携帯のキャリアなど]に対して、発信者情報消去禁止の仮処分も行った場合
発信者の情報を保存するように求めた場合は、決定正本の写しを提示することでアクセスログの保存を求めます。その後はサイト管理者の場合と同様に訴訟を行うことになります。
請求を受けた側の流れ
書き込みを行った投稿者側の場合、仮処分では直接的な影響はありません。仮処分の場合、開示請求の対象になるのはサイトの管理者ですし、記録の保全を求められるのはプロバイダです。
投稿者自身への請求は発生しませんが、IPアドレスが開示されたり、アクセス記録が保存されたりすることで、自己への請求の可能性は高まります。
仮処分に従い、サイト管理者からIPアドレスの開示があった場合、誹謗中傷を受けた者は、プロバイダに対し、情報開示請求を行います。
そして、プロバイダから、投稿者に対して、開示に同意するかどうか意見照会が行われます。拒否すればプロバイダが勝手に個人情報を開示することはありませんが、誹謗中傷を受けた人は開示のため訴訟手続きを起こす可能性が高いと考えられます。
プロバイダに対する訴訟手続きが行われた場合、裁判の結果、請求が認められると、プロバイダは通常、控訴せず一審の判決に従いますので、投稿者の氏名・住所といった個人情報が相手に開示されてしまうでしょう。
まとめ
発信者情報開示請求における仮処分命令が発令されると、IPアドレスの開示やアクセス記録の保全を行うことができます。
しかし、これだけで氏名や住所など相手の情報が開示できるわけではありません。情報開示を受けるためには本訴において勝訴判決を取得する必要があります。
仮処分だけで目的を達成したとはいえませんが、プロバイダのアクセス記録には保存期間の期限もあるため、仮処分は、より確実に発信者の情報を取得するために必要な手続きといえます。