交通事故の被害に遭って、治療後も後遺症が残ってしまい、後遺障害14級の認定を受けられた場合、どのような行政サービスを受けられるのでしょうか。
交通事故による後遺障害とは
交通事故の被害者になり、病院で治療を行ったものの完全に治りきらずに何らかの症状が残ってしまった場合を「後遺障害」といいます。日常生活でも、病気などの治療後に症状が残ったとき、「後遺症」という言葉を使いますが、後遺障害は後遺症と少し異なり、交通事故による症状が残ったケースのみに使われる用語です。
後遺障害には定義があり、次の条件全てを満たす場合のみ専門機関への申請を行うと認定が受けられるようになります。
2、後遺症の存在が医学的に認められ、交通事故との間での相当因果関係を証明できる。
3、傷害の存在が労働能力の喪失につながっている。
4、後遺症の程度が「自動車損害賠償保障法施行令」に定められる後遺障害等級に該当している。
単に後遺症が残っているだけでなく、医学的に事故との関係が認められ、かつ労働能力に悪影響を及ぼしており、さらに症状が自賠責施行令に定められているものに限り、後遺障害の認定を受けられます。
後遺障害の等級とは
後遺障害は、自賠責施行令別表に定められた1級から14級までの等級に分かれており、14級が最も軽く、数字が小さくなるほど障害の程度が重くなっていきます。1級が最も重い障害で、介護が必要になるとさらに手厚い補償が受けられます。
後遺障害等級の認定を受けると、以下のように損害賠償として「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」を請求できるようになります。
・後遺障害慰謝料……交通事故の後遺障害による精神的苦痛に対する補償。
・後遺障害逸失利益……後遺障害により働けなくなったり、転職せざるを得なかったりなど、将来入るはずだった収入が入って来なくなってしまった場合に請求できる賠償金。
この記事で紹介する後遺障害14級は、等級の中では最も軽いものですが、後遺障害のなかでも認定される割合が高く、全体の6割近くを占めています。
後遺障害の申請方法
後遺障害等級の認定を受けるには、「損害保険料率算出機構」の「自賠責損害調査事務所」といわれる機関に申請を行い、所定の要件を満たしていると認められる必要があります。後遺障害は医師の判断だけで決まるものではなく、後遺症が残っても自動的に認定を受けられるわけではありません。必ず専門機関への申請を行う必要があるのです。
後遺障害の申請には、医師から「これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態」である「症状固定」の診断を受けた後、医師に作成してもらう「後遺障害診断書」が必要です。
後遺障害の申請には、「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があります。
事前認定
加害者の加入している任意保険会社が被害者に代わって手続きを行う方法。
メリット | ・申請に関する面倒な手続きを全て保険会社がやってくれる。 ・手続きの方法などがよくわからなくてもミスをする恐れがない。 ・必要な書類や資料などを入手する費用を保険会社に負担してもらえる。 |
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デメリット | ・保険会社はなるべく支払う保険金を安く抑えたいと考える傾向にあるため、不当に低い等級で認定されたりして、納得のいく結果にならない可能性がある。 ・保険料が一括で支払われるようになるため、自賠責保険だけを先に受け取る方法が使えなくなる。 |
被害者請求
加害者の自賠責保険会社を通じて被害者が自分自身で申請を行う方法。
メリット | ・先に自賠責保険だけを受け取る制度が利用できるようになり、加害者との示談前でもお金を払ってもらえる。 |
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デメリット | ・申請に関する手続きについて、必要書類の入手をはじめ、全て自分で行わなければならず、時間や費用がかかる。 |
後遺障害等級14級とは?
後遺障害等級14級は交通事故の後遺障害の中では最も軽い等級になり、以下の症状の場合に認定を受けられます。
後遺障害14級の症状一覧
1号 | まぶたの一部の欠損または、“まつげはげ”が残った状態。 |
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2号 | 3本以上の歯に歯科補綴(歯が欠けたり、無くなったりしたときにクラウン、入れ歯などを使って見た目や噛み合わせを補う治療法)の治療を行った場合。 |
3号 | 片方の耳の聴力低下(40dB以上70dB未満:1メートルを超える距離では小声を理解できない) |
4号 | 上半身の露出面(腕の付け根部分から指先にかけての部位)に手のひら大の傷跡が残った状態。 |
5号 | 下半身の露出面(股関節から足の背面までの部位)に手のひら大の傷跡が残った状態。 |
6号 | 片手の親指を除くいずれかの指の骨の一部を失ったり、上手くくっつかなくなったりした状態。 |
7号 | 片手の親指を除くいずれかの指で遠位指節間関節(第1関節、指先に一番近い関節)を曲げ伸ばしできなくなった状態。 |
8号 | 片足の中指から小指のうち1本または2本の用を廃した状態。 用を廃するは以下の1~3いずれかに該当する場合を指す用語。 1、第1~第2関節の間の骨または第2~第3関節の間の骨を切断。 2、第1または第2関節を離断(軟骨が剥がれ落ちてしまう障害)。 3、第2~第3関節の可動域が2分の1以下になった状態。 |
9号 | 局部に神経症状(手・指・顔などの痺れ、首・肩・腰などの痛み、頭痛、めまい、耳鳴り、関節痛、吐き気などの症状)が残った状態。 |
例えば、以下のような事例ではそれぞれ14級の各号に該当します。
ケース①……自転車で信号のない交差点を横断中に自動車と衝突し、転倒・骨折する事故を起こした。病院で手術を受けたものの、リハビリ後も膝を曲げるたび痛みを感じるようになってしまった。→14級9号
ケース②……夜に歩道を歩いていたところ、後ろからきた自転車にぶつかる事故を起こして骨折。リハビリ後も足指の可動域が制限される障害が残った。→14級8号
ケース③……自動車を運転中、交差点でわき道から進入してきた車と衝突。肩関節損傷や頚椎捻挫などのケガを負い、治療・リハビリを経て、肩は完全に治ったものの、腰の痛みは無くならなかった。→14級9号
ケース④……信号のある交差点において、自転車で横断歩道を渡っていたところ、右折車と衝突する事故を起こし、半袖の服を着ていたため、腕の露出部分に傷が残った。→14級4号
後遺障害の14級で受けられる行政サービス
交通事故が原因の後遺障害で日常生活や社会生活などが困難な障害者になった場合、行政が運営する福祉サービスの利用により支援を受けられる制度があります。
障害福祉サービス
厚生労働省の「障害福祉サービス」は、障害者の支援について定めた「障害者総合支援法」に基づいて運営されている制度です。障害福祉サービスには、日常生活や社会生活に必要な訓練を行う「訓練等給付」と日常生活に必要な介護支援を提供する「介護給付」の2種類があります。
訓練等給付
自立生活援助、共同生活援助、自立訓練(機能・生活訓練)、就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援など。
介護給付
居宅介護、重度訪問介護、同行援護、療養介護、施設入所支援など。
障害福祉サービスの詳しい内容
厚生労働省:障害福祉サービスについて
②18歳未満で身体・知的・精神障害をもつ児童。
③難病患者
交通事故による後遺障害も、①の身体障害に含まれるため、障害福祉サービスの対象となる場合があります。サービスを受ける際は、住んでいる市町村への申請を行い、「障害福祉サービス受給者証」を取得してください。障害者手帳がなくても受給者証があればサービスを受けられます。
後遺障害14級の場合は、障害の程度が軽いため、受けられるサービスも限られますが、全く利用ができないわけではなく、就労支援など一部のサービスは利用できる場合があります。
障害者手帳
交通事故による後遺障害の程度によっては障害者手帳の交付を受けられるケースもあります。障害者手帳は各地方公共団体で認定・交付が行われており、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3つを総称した呼び方です。
後遺障害の場合、このうち身体障害者手帳を交付してもらえる可能性があります。
申請は、各地方公共団体指定の医師による診断書、意見書、障害のある部位についての写真などを市役所または社会福祉事務所に提出して行います。一度交付されると原則更新手続きは必要ありません。
ただ、障害者手帳をもらえるのは重度の障害の場合に限られており、後遺障害の中では最も軽い14級やその中でも一番認定数の多い14級9号の「むちうち」の症状では交付されないケースがほとんどです。
後遺障害の14級が認定されない理由
交通事故で後遺障害等級の申請を行い、無事認定を受けられるのは、実は全体の5%程度とされており、申請しても「非該当」になってしまう可能性がかなり高いのです。なぜ後遺障害等級の認定率はこれほど低くなってしまうのでしょうか。
ここからは、後遺障害14級の申請を行った際、認定を受けられなくなってしまう原因について解説します。
1、後遺障害診断書が不十分
医師の作成する「後遺障害診断書」の内容に不備があると、申請しても後遺障害等級の認定を受けられない場合があります。診断書では定型サイズの書類1枚に後遺障害の根拠となる症状や医学的所見などを過不足なく整合性がとれるように記載しなければなりません。
基本的に認定は、診断書などの提出書類のみで判断されるため、記載漏れなどがあるとそれだけで非該当の原因になってしまいます。後遺障害14級に多いむちうちのような外見からは判断できない症状の場合では特に重要になってきます。
しかし、交通事故に詳しくない医師だと、書き慣れていなかったり、きちんと内容が書かれていなかったりする場合があるため注意が必要です。診断書の内容に不安がある場合は、弁護士にも相談して意見やアドバイスをもらうようにすると良いでしょう。
2、症状を裏付ける他覚的所見・検査が不足している
後遺障害の認定では、診断書はもちろん、レントゲンやCT、MRIなどの画像資料やジャクソンテストやスパークリングテストといった神経伝導検査など、他覚的所見(客観的に捉えられる症状)の内容も重視されます。
特にむちうちのような症状では、必要な検査等を受けていないと、症状を医学的に証明するのが難しくなってしまいます。どのような画像や検査が必要になるかは症状によって異なり、医師も十分に把握していない可能性があるため、申請の際には交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。
3、通院期間・通院日数が足りていない
通院期間や治療期間が短すぎる場合にも、後遺障害の認定を受けづらくなってしまうケースがあります。治療期間が足りないと、「後遺障害認定が必要なほど重大なケガではないのでは?」「治療を続ければ治る可能性もあるのでは?」などと判断され、認定されなくなる恐れがあるのです。
4、症状に連続性・一貫性がない
主張する症状に連続性・一貫性がないと思われると非該当になる場合があります。最初は痛いと言っていなかったのに後になって症状を訴えたケースや治ったと言って治療を止めた後から、やっぱり続いていると言って治療を再開したケースなどは、一貫性はもちろん、本当に事故による障害なのか、因果関係をも疑われてしまう可能性があるため注意が必要です。
5、交通事故の規模が小さい
規模の小さな交通事故では、後遺障害等級の認定を受けるのが難しくなってしまいます。重大な後遺障害はたいてい大事故の場合に残りやすく、小さな事故では障害も残りにくいと考えられてしまうためです。
後遺障害等級に納得できないときはどうする?
交通事故の後遺障害等級が認定される確率はとても低くなっているため、申請を行っても非該当になってしまうケースは十分に考えられます。
申請結果に納得できないときの対応には、以下の3つがあります。
1、異議申立て
「損害保険料率算出機構」へ書面を提出で異議申立てを行い、後遺障害等級申請の再審査を実施してもらう方法です。異議申立てには費用がかからず、回数制限がないため何度でも行えます。しかし、一度非該当になった結果を覆すには、新しい資料や検査結果など医学的根拠が必要になります。
また、異議申立書の内容に関しても専門的な知識と経験が求められるため、作成の際には、弁護士など専門家に相談するようにしてください。
異議申立てにも、後遺障害等級申請と同じく、事前認定と被害者請求の2種類があります。最初の申請を事前認定で行っていた場合には、異議申立ては事前認定と被害者請求のどちらで行うか選択できます。
2、紛争処理手続き
紛争処理制度により「ADR(裁判外紛争処理手続き)機関」を通じて解決を図る方法です。
結果が出るまでには通常3か月程度かかるものの、裁判と比べると非常にスピーディなのが特徴です。ADRも異議申立てと同様に無料ですが、利用は一度だけと決まっているため、申請の際はタイミングなど適切な判断が必要とされます。
3、訴訟の提起
裁判所に民事訴訟を提起して審査の妥当性を裁判官の判断に委ねる方法です。裁判になると通常、半年から1年、長ければそれ以上の時間がかかり、さらに裁判費用も必要になります。
そのため、訴訟の提起は最終手段といえますが、その分、納得いくまで争える上、裁判所は自賠責損害調査事務所やADR機関の審査内容に影響されず、独自の判断を下すため、非該当の決定を覆したり、最初よりも高い等級で認定を受けられたりする可能性があるのです。
しかし、裁判で良い結果を得るには、裁判官を納得させるだけの証拠や資料が求められます。また、一般の方が自分だけで訴訟を起こすのは難しいため、裁判をお考えの場合は、専門知識や経験をもった弁護士など法律の専門家に相談してみてください。
非該当の決定を覆すためには
2019年のデータによると、異議申立てにより非該当の判断が覆って等級認定を受けられた事例は全体の約19%と、後遺障害等級の認定率よりは高いものの、依然として狭き門といえます。そのため、異議申立て等を行ったとしても必ずしも良い結果になるとは限らないのです。
結果を変えるためには、最初の申請で不足していた資料を揃えるなど、自分の症状を客観的に証明するための対策が必要になります。特に後遺障害14級に多いむちうちは神経症状のため、外見での判断が難しく、医学的な証拠が重要になってきます。
はじめの申請ではどこが悪かったのか、認定を受けるためにどういった資料が必要になるのかなど、再審査に不安がある場合は、弁護士に依頼・相談することをおすすめします。
まとめ
交通事故により、むちうちなどの症状が残った場合は、後遺障害等級の認定を受けると、障害福祉サービスなど、さまざまな行政サービスを受けられるようになります。しかし、交通事故における後遺障害の認定率は非常に低く、非該当になってしまう可能性も高いといえるでしょう。
特に後遺障害14級ではむちうちのように見た目から分かりにくい症状で、上手く申請が通らないケースが見受けられます。認定を受けられなかったり、思っていたより低い等級になってしまったりと後遺障害の申請に納得できずに悩んでいる方は、一度、弁護士など交通事故に詳しい専門家に依頼・相談してみてください。
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