親告罪とは
まずは親告罪とはどのような罪で、なぜこのような制度になっているのかを解説していきます。
親告罪とはどんな罪か
被害者からの訴えがなければ、警察が捜査などを行うことのない犯罪は「親告罪」と呼ばれます。親告罪自体が何らかの犯罪行為を指すわけではなく、犯罪の一部を分類するときに使用される用語です。
窃盗や傷害のような犯罪であれば、警察は被害者からの依頼に関係なく捜査を行います。しかし、親告罪の場合は、被害者が警察に加害者の処罰を求めなければ、たとえ犯罪行為が行われていたとしても、警察が捜査に乗り出すことも、加害者が起訴されることもありません。
なぜ親告罪が設けられているか
なぜ犯罪なのに、自分から訴えないと捜査されないことになっているのか、その理由には以下のものがあります。
親告罪に指定されている犯罪の多くは、器物損壊罪や過失傷害罪、侮辱罪など比較的軽微なものです。
こうした犯罪では、当事者同士での話し合いや謝罪、弁済で解決できるケースもあり、わざわざ事件にする必要がないと考えられていることが理由の1つになっています。
親告罪の中には、名誉毀損やストーカー規制法違反、リベンジポルノ被害防止法違反など、被害者のプライバシーに深く関わる犯罪が多く、警察の捜査が行われれば、事件が報道されるなどして被害者のプライバシーが他人に知られる恐れもあります。
そのため、被害者のプライバシー保護に配慮してこうした犯罪は親告罪とされています。
窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪 横領罪など一部の犯罪は、相対的親告罪といわれ、夫婦や家族間で起きた場合に親告罪となります。
家族の問題に、基本的には家族で解決し、強制的に法が介入すべきでないという「法は家庭に入らず」といわれる考えに基づくものです。
親告罪にあたる犯罪の被害者になったらどうすればいいのか
では、自分が親告罪にあたる犯罪に遭ってしまった場合、犯人を取り締まってもらうためにはどのような行動をとればいいのでしょうか。
まずは警察に対して「被害届」を出し、犯罪があったことを申告します。
説明したように、親告罪は自分から言い出さない限り、たとえ犯罪行為があったとしても警察は動いてくれません。親告罪にあたる犯罪に遭ったときに大切なことは、警察に犯罪として取り扱ってもらうことで、そのためには被害届を出すことがスタートとなります。
ただ、被害届はあくまでも被害があったことを報告するだけのもので、これだけでも捜査が行われるきっかけになるケースもありますが、犯人をきちんと取り締まってほしいと思うのなら、さらに告訴状を提出する必要があります。
告訴状も警察など捜査機関に出すものですが、被害届と違って犯罪に遭ったことを知らせるだけでなく、警察に対して犯人を処罰するため捜査に乗り出してくれるよう求めるものです。
告訴が受理されると警察の捜査がはじまり、告訴の内容通りと判断されれば、加害者は逮捕されて起訴等の処分を受けることになります。
告訴をするには期限がある?
警察への告訴はいつでもできるわけではなく、告訴期間が定められており、これを過ぎると告訴することができなくなります。
刑事訴訟法235条1項本文が定める告訴期間は、『犯人を知った日から6か月』とされています。
ただ、この犯人を知った日とは、犯罪行為が終了してから犯人を知った日とされているため、犯罪行為が続いている状態であれば告訴期間のリミットが進行することはないと考えられます。
また、他にも公訴時効と呼ばれるものがあり、犯罪から一定の期間が経過するといわゆる時効となって犯人を公訴することができなくなります。
公訴時効は犯罪によって異なり、殺人は期限自体がありませんし、強盗の10年や傷害致死の20年のように長いものもあります。一方で、親告罪では、名誉毀損の3年のように比較的短くなっています。
誹謗中傷の罪のうち親告罪にあたるもの、あたらないもの
はじめに、親告罪とはどのような犯罪かを説明してきましたが、最近、社会的な注目も大きくなっているネットやSNSでの誹謗中傷問題のなかにも、親告罪にあたる犯罪とあたらない犯罪があります。
親告罪になるものとならないもの、それぞれどのような犯罪があるかをみていきます。
親告罪にあたる罪
親告罪である代表的な犯罪には以下のものがあります。
相手の名誉や社会的な信用・評価を下げる書き込みをした場合に該当します。
成立するには何らかの具体的な事実をもとに相手を誹謗中傷していることや内容が不特定多数の人に知られる可能性があることなどが条件になっています。
有罪になれば、3年以下の懲役・禁錮(収監されるが作業義務がないもの)または50万円以下の罰金に処され、公訴時効は3年です。こちらも相手の名誉を傷つける投稿をした場合に適用されるものですが、侮辱罪の場合は、具体的な事実を上げる必要はなく、「バカ」「死ね」「きもい」といった単なる悪口でも成立するのが特徴です。
有罪になれば、拘留(1日以上30日未満の短期間の収監)または科料(1000円以上1万円未満の罰金)に処され、公訴時効は1年です。漫画や映像作品など他人の著作物を違法コピーしたり、アップロードする著作権侵害もネット上で大きな問題となっている犯罪ですが、こちらも一部を除いては親告罪に分類されるため、著作権者からの訴えがなければ起訴されることはありません。
著作権は著作権者がもつ私権のため、強制的に捜査機関が介入するより、何が侵害にあたり、取り締まるべきかどうかは著作権者に判断してもらったほうがいいという考え方です。
著作権侵害への罰則として、10年以下の懲役または1000万円以下(法人が侵害した場合は3億円以下)の罰金が定められています。親告罪にあたらない罪
反対に親告罪にあたらず、犯罪行為の事実があれば警察が捜査に乗り出す犯罪には以下のものがあります。
誹謗中傷の中でも相手を脅したり、金銭を要求したり、営業を妨害するような書き込みなどより犯罪性の高いものは、非親告罪になっています。
・脅迫罪
相手の身体や生命、財産を傷つけると伝えて人を脅した場合に成立する犯罪で、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
・恐喝罪
恐喝罪は脅すだけでなく、相手に金銭などの財物を交付させる行為をいいます。いわゆるカツアゲがこれにあたり、10年以下の懲役に処されます。
・業務妨害罪
他人の業務を妨害した場合の犯罪で、虚偽の風説を流布する偽計業務妨害や殺害予告や爆破予告など何らかの威力を用いて業務を妨害する威力業務妨害などがあり、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
・強要罪
脅迫罪と似ていますが、脅すだけでなく、相手になんらかの行為を不当に強要した場合に成立し、3年以下の懲役に処されます。
警察に届けても犯罪として認められないケースも?
ここまで、親告罪は自ら訴え出ないと警察に動いてもらえない犯罪であることを説明してきましたが、警察に被害を届けて告訴を行っても犯罪として認められないケースもあります。
犯罪として認められないケースとは
警察に告訴状を出しても、受理してもらえないケースもあります。基本的に、警察は告訴状が出されたら受け取って捜査をはじめなければなりません。
ただ、警察も多くの事件の処理に追われており、人手不足の状態にありますし、告訴状の中には犯罪性が低いものや債権回収など民事訴訟を有利に進めるために出されるものも混ざっていることがあります。
告訴状を受理すると、警察は起訴するかどうかのところまできちんと捜査する必要性が生まれます。
そのため、事件性のあるものかどうかを事前に精査しなければならず、結果として告訴状が受理されにくくなり、受け取ってはもらえるものの、正式な受理は難しくなることがあります。
もちろん、被害届だけでも全く捜査が行われないわけではありませんが、加害者をきちんと処罰してほしい場合は、告訴状を受理してもらうことが望ましいです。
認められなかったときにできること
犯罪として警察に捜査してもらうのが難しい場合でも、あきらめたり、泣き寝入りしたりする必要はありません。
刑事事件として訴えることができなくても、民事事件として損害賠償請求訴訟を起こし、慰謝料を請求することができます。
刑事事件として捜査や起訴が行われても、被害者に慰謝料などが支払われるわけではないため、金銭的な補償を受けたい場合には、民事訴訟を起こす必要があります。
訴訟の手続きは複雑ですので、民事で裁判を起こすときは、一度、弁護士など法律の専門家へ相談するようにしてみてください。
また、告訴状を書く時も弁護士に協力してもらうほうがより受理してもらいやすいものが作成できるといえます。告訴と同様、民事でも一定の期間が経過すると時効によって訴訟ができなくなります。
まとめ
ネットやSNSで誹謗中傷の被害に遭ったとき、名誉毀損などの犯罪では、民事はもちろん刑事においても、自分から訴えないと警察は動いてくれません。
告訴には定められた期間があるため、加害者を処罰してほしいなら、なるべく早く行動することが求められます。
刑事告訴や民事での慰謝料請求は、複雑な手続きなど個人ではなかなか難しいことも多いので、被害に遭われた方は、お近くの法律事務所などで弁護士に相談してみるとよいでしょう。