インターネットの誹謗中傷に対する刑罰は厳罰化へ?今後の動きや見通しについて

インターネットの誹謗中傷に対する刑罰は厳罰化へ?今後の動きや見通しについて

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誹謗中傷の問題は深刻化しており、それが理由で芸能人が自殺する事件も発生しています。

このことから厳罰化を求める署名の動きも起こっており、政府は時間をかけて制度の改正に取り組んでいます。

この記事では、誹謗中傷が社会的に問題になった事件と、政府の取り組みについて説明します。

SNSでの誹謗中傷に対する刑罰は軽い?

近年では、ネット上の誹謗中傷が問題視される事件が起きており、さらなる厳罰化を望む声が多く上がっています。

ここからは、有名な誹謗中傷に関する事件と、現状の罰則状況について解説します。

木村花さんの誹謗中傷事件

2019年9月、女子プロレスラーの木村花さんは、リアリティー番組である「テラスハウス」に出演し、番組内の言動についてSNS上で数多くの誹謗中傷を受けました。その結果、木村さんは、2020年5月に自らの命を絶ちました。

この事件を受けて、警視庁は、木村さんに寄せられた書き込みのうち約200アカウント、300件の投稿を誹謗中傷と判断し、特に悪質なコメントをしていた大阪府の20代男性と福井県の30代男性の身元の特定に成功します。

大阪府の男性は、8回にわたり花さんに「テレビ、ネット、社会でも生きてるだけで笑いもの」「ねえねえ。いつ死ぬの?」などと投稿し、福井県の男性は花さんのTwitterアカウントに複数回コメントし、「死ねや、くそが」「きもい」などと投稿していたことが判明しました。

このような誹謗中傷のコメントを書き込んだ2名は侮辱罪で略式起訴されましたが、刑罰は科料9000円の略式命令にとどまりました。

誹謗中傷に対する罰則の現状

誹謗中傷の犯人を訴えて刑事裁判で勝訴すると、加害者に対して刑法に規定されている刑罰が言い渡されます。

刑罰は適用される罪ごとに異なっており、例えば、名誉毀損罪の罰則は、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」と定められています。

一方で、他人に侮辱的発言をした際に成立する侮辱罪の罰則は、「拘留または科料」が規定されています。拘留とは「1日以上30日未満の期間、刑事施設に収容すること」で、科料とは「1万円未満の金銭徴収」を意味します。

POINT
このことから、侮辱罪の罰則は名誉毀損罪に比べると非常に軽いものだということがわかります。

法定刑見直しに向けた動き

木村さんが自殺した事件を受けて、政府は誹謗中傷に関する法定刑の見直しに着手しています。現在、議論が進められている誹謗中傷の対策案について解説します。

法務省による法定刑見直し

侮辱罪の法定刑は「30日未満の拘留または1万円未満の科料」で、軽犯罪法違反と同じレベルの罰則になります。

捜査関係者は「時代に合っていない。匿名の中傷は罰則強化が必要だ」と意見を述べており、法務省は法定刑の見直しをすすめています。

具体的には、過去の処分や科刑状況、外国の制度などの調査を開始しました。

プロバイダー責任制限法の改正

2021年4月21日、国会において、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(いわゆる「プロバイダ責任制限法」)の一部を改正する法律が成立しました。2021年4月28日に改正法が公布され、来年の秋頃までに施行される見込みです。

改正法では、発信者情報開示請求に係る新たな手続きが創設されました。

従来のプロバイダー責任制限法においても、誹謗中傷の投稿者を特定することは可能です。特定をする際は、プロバイダー責任制限法に規定されている発信者情報開示請求を利用します。

発信者情報開示請求とは、投稿者の情報(住所、氏名、電話番号、メールアドレス、IPアドレス、等)をプロバイダに開示してもらう手続きです。

この手続きによって誹謗中傷の発信者を特定することで、その後の慰謝料請求などの法的措置に移行することができます。

ただし、発信者情報の開示請求をするには、まず、SNSや掲示板の運営会社(コンテンツプロバイダ)にIPアドレス等のアクセス情報の開示を請求し、その後、開示されたIPアドレス等によって特定された通信事業者(経由プロバイダ(ISP[携帯のキャリアなど])に対して、契約者の発信者情報(氏名・住所等)の開示を求めて通常訴訟の勝訴判決を得る必要があります。

これらの開示請求は、通常訴訟を起こす必要があり、被害者が発信者を特定するまで1年近くかかってしまいます。そのため、改正前のプロバイダー責任制限法における発信者情報開示請求は、使い勝手がよいとはいえないものです。

新しい裁判手続では、複数回の手続を取る手間が緩和する措置がされ、1つの裁判手続きで投稿者の情報開示を求めることができる手続きが創設されました。

また、裁判所が必要と判断した場合には、情報開示が認められる前であっても、コンテンツ事業者等に対し、発信者が使用したアクセスプロバイダ等に関する情報提供を命じることが可能になります。

現状では、情報開示に半年から1年以上かかってしまう場合が多くありますが、新たな制度では、申し立てから数カ月程度で開示命令決定がされると見込まれています。

POINT
法定刑が厳罰化されるわけではないですが、開示請求の手続きが簡略化することで、誹謗中傷被害の状況が改善されることを期待できます。

厳罰化に向けた今後の見通し

SNSやネットが普及した現代では、人格否定や侮辱などの中傷被害が後を絶ちません。

誹謗中傷の被害を受けた木村花さんの母親である木村響子さんは、現行の侮辱罪は、今の時代に即していないと指摘しています。

響子さんは、Change.org(様々なキャンペーンへのオンライン署名収集ができるウェブサイト)で侮辱罪の厳罰化を求める署名キャンペーンを立ち上げました。5月17日時点で3万4000筆の賛同を集め、法務省に提出しました。

2021年6月、SNS上での誹謗中傷問題で、自民党は侮辱罪の厳罰化の検討などを盛り込んだ緊急提言をまとめました。

この提言には、法定刑の引き上げや国の相談、広報体制の強化、SNSの使い方を教育現場で教えるといった内容が含まれます。党側は今後、法務省の審議会での検討を求める対応などを説明しています。

 一方で、侮辱行為を一律に厳罰化した場合、言論の萎縮につながりかねないという批判もあります。

これに対し、自民党の「インターネット上の誹謗・中傷対策に関するプロジェクトチーム」事務局長の国光文乃衆院議員は「政治批判は対象とせず、行き過ぎた人権侵害に相当するケースを罰するべきだ。消極的な理由で泣き寝入りをほっておくのはこれ以上看過できない」と話しています。

すぐに法定刑を厳罰化できるわけではありませんが、これから少しずつ改善されていくことが期待されています。

まとめ

現状のインターネットの誹謗中傷の刑罰が軽いと考える人は多く、厳罰化へ向けて署名運動なども起こっています。法務省は法定刑見直しに向けた検討に着手しており、時間をかけながら法定刑の厳罰化をすすめています。

もちろん、法定刑が厳罰化されても誹謗中傷が完全になくなるわけではないので、誹謗中傷の被害にあった時は、弁護士などの相談をおすすめします。

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