インターネットで誹謗中傷した相手は特定できる?発信者情報開示の請求方法

インターネットで誹謗中傷した相手は特定できる?発信者情報開示の請求方法

最近では、新型コロナウイルス感染症のクラスターに関連したお店への誹謗中傷が多発し、人権にかかわる精神的な被害が深刻化しています。

こうしたインターネット上の誹謗中傷は、発信者を特定することは可能なのでしょうか?特定するためには、事前の準備と様々な手続きが必要です。

本記事は、発信者情報開示請求の準備や手続き、請求方法を解説します。

誹謗中傷した相手を特定する動き

最近では、芸能人がネット上の誹謗中傷の相手を特定する動きが増えている

こうした誹謗中問題で、芸能人が相手を特定する動きも活発になっています。ただ、発信者情報開示請求したり、訴訟を提起するのは多額の費用や時間がかかり、一般の方にはハードルが高いといった側面もあります。

こうした誹謗中傷には、捨てアカウントを使う人も存在する?

SNSでは、メインのアカウント以外に別のアカウントを作成した上で誹謗中傷する、いわゆる「捨て垢(すてあか)」という、捨てアカウントが存在しています。

そのため、繰り返し誹謗中傷するケースが多く、ブロックしても新しいアカウントを作るといった、いたちごっこの状態になり、被害が深刻化しています。

中には、職場のパンプスを強制された女性が「#KuToo」という運動を始めた後、捨て垢で誹謗中傷されるといった事例もあります。

アカウントをすぐに削除すると、発信者の特定が難しくなるため、被害者が泣き寝入りするといった現状が多いようです。

相手を特定した事例

例えば元AKB48のメンバーでは、ありもしない無銭飲食や妊娠に関する誹謗中傷を受け、弁護士に依頼し、発信者情報開示請求行い、相手方を特定した上で刑事告訴しました。この事案では、女性2人が侮辱罪で書類送検されています。

また、がん闘病中だったタレントが「死ねば良かったのに」「消えろ」などと、ブログに誹謗中傷する投稿が相次ぎ、その後に発信者を特定した上で、脅迫容疑で書類送検された事案もありました。

さらに、女優が劇場への爆破予告を受け、子役時代から10年以上にもわたるSNS誹謗中傷を明かし、その後に発信者情報開示請求を行い、損害賠償を求める裁判を起こした事例もあります。

プロ野球選手の妻がネット上の匿名掲示板で、誹謗中傷の内容とする書き込みを行った女性に対し、高額の損害賠償を求め提訴したことも話題になりました。

誹謗中傷した人を特定するための準備

発信者情報開示請求を行うためには?

投稿によって被害者の社会的地位が低下しているという証明が出来ないとき

インターネット上の誹謗中傷では名誉毀損が成立しないという裁判例もあります。

投稿の内容が真実であり、公共の利益のために発言されていた

真実であることの証明公益性があると違法性が阻却され、不法行為が成立しません。

投稿されてから時間が経ち過ぎている

Webコンテンツの管理者が発信者ログを残している期間は3ヶ月~6ヶ月程度とされています。この期間をすぎてしまうと、発信者を特定できない可能性があります。

誹謗中傷を投稿されたサービスが海外のサービスであった場合

海外法人であった場合は、やり取りや手続きに多くの段階があるなど、様々なハードルが立ちはだかり、時間や精神的な負担も大きくなり、発信者の特定に至れない可能性が高まります。

上記のケースに当てはまる場合は、特定できないことがあります。

誹謗中傷した相手を特定する「発信者情報開示請求」の手順

発信者情報開示請求とは?

インターネット上で誹謗中傷などを行っている発信者に対して、サイト管理者やプロバイダを通じて、発信者情報を開示する手続きを言います。投稿者のIPアドレスやタイムスタンプの開示を求めます。

プロバイダ責任制限法に基づいて開示請求

プロバイダ責任制限法に基づき(正式名称:「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)サイト管理者やプロバイダへ投稿者の(住所、氏名、電話番号、メールアドレス、IPアドレス、SIMカード識別番号、タイムスタンプ等)の開示請求を行います。

開示請求方法
Webのフォームやメール、書式を送付して行います。書式は、プロバイダ責任制限法関連情報Webサイトで公開されています。

この段階では、なかなか開示請求に応じてもらえないことが多いです。

発信者情報消去禁止の仮処分命令申立

発信者情報が消去されてしまうと特定が困難になるので、発信者情報開示請求の手続きが終了するまで消去されないようにするための申し立てです。

一般的には、2週間程度で発信者情報消去禁止の仮処分命令が下されます。

発信者情報開示請求訴訟

プロバイダへ裁判上の発信者情報開示請求を行います。投稿者の(住所、氏名、電話番号、メールアドレス)などの開示請求を行います。

訴訟を提起した後は、一般的に「発信者情報開示に係る意見照会書」が簡易書留で届きます。

意見照会書には,請求者の氏名、掲載された情報、侵害された権利、権利が明らかに侵害された理由、発信者情報の開示を受けるべき正当理由などが記載されています。

  • 裁判は、2回〜3回の口頭弁論期日で結審するとされています。
  • 権利侵害が認められれば、発信者情報開示命令が出されます。

この裁判で発信者を特定するには、資料の準備や反論などによって異なりますが、一般的に6ヶ月から9ヶ月の期間を要することが多いようです。

誹謗中傷を専門家に相談する場合

現在の日本の制度では、情報開示に最低2回の裁判が必要となります。

したがって、自分で行うとなると、任意の開示ではWebサイトや専用のフォームなどで必要事項を入力して請求できますが、裁判上の請求となると法的知識が求められるので、適切な主張ができない可能性も十分あります。

一方、令和3年2月26日には、政府がプロバイダー責任制限法の改正案を閣議決定し、国会に提出しました。新たな裁判手続きの創設と投稿者のログイン記録を開示請求対象にすることが柱となるようです。

この改正案を受け、被害者の負担軽減、裁判手続きを簡略化など、迅速な救済が期待されています。

2020年8月には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項」の発信者情報を定める省令が改正され、開示される項目に電話番号を追加されました。

いずれにしても、ネット上の誹謗中傷被害は迅速な対応が必要なため、法的知識が乏しい場合には、専門家である弁護士等に相談するのもひとつの方法です。相談のみでは、無料で応じていただけるケースも増えています。

弁護士等に依頼すると、精神的な不安が大きく軽減されるメリットがあります。

まとめ

ここまで、インターネット上の誹謗中傷した相手を特定する手順や特定に至った事例、発信者情報開示請求の仕組みなどを解説してきました。

最近ではSNSやネット上で、人気歌劇団に対し、出演者やスタッフを誹謗中傷したなどとして、同歌劇団は、発信者情報開示請求を実施することを報告しました。

増え続けるネット上の誹謗中傷は、迅速な行動が解決につながる可能性もあるため、まずは弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。

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