誹謗中傷されたときにできること
インターネットで表現活動をしていると、顔も知らない他人から酷い悪口を言われることがあります。中でも、「お前を殺してやる」などの脅迫めいた誹謗中傷の対策は、生命・身体への危険が大きいので、被害届を出すことが最優先になります。
ここからは、ネット上で誹謗中傷されたときにできることを紹介します。被害届を出すこと以外にも方法がありますので、これについても併せて紹介します。
被害届を出す
まず、警察へ被害届を提出することが対応として挙げられます。被害届とは、犯罪による被害を受けた旨を捜査機関に申告することです。
後述するように、運営サイトに対する書き込みの削除申請が認められて投稿が削除された場合でも、同一人物から再び誹謗中傷されるおそれがあります。
被害届の出し方に関しては、被害届を出すこと以外の方法に説明した後、次の見出しで詳しく解説していきます。
書き込みの削除依頼をする
次に、誹謗中傷の被害にあったときは、運営サイトに書き込みの削除を求めることができます。SNSや掲示板の運営サイトは、問題が発生したときのために問い合わせフォームを用意してあることが一般的です。
サイトの規約に従いながら書き込みの削除を求めることで、該当する悪質なコメントを削除してもらえる場合があります。
仮処分の申請をする
削除の申請が認められなかった場合は、裁判所にて削除請求の仮処分という法的手続きを求めることになります。
削除請求の仮処分とは、通常の裁判の結果を待っていては、被害者に著しい不利益が発生する場合に、裁判所が運営サイトに削除命令を発するものです。
裁判所が削除命令を発した場合、ほとんどの運営サイトは裁判所の命令に従います。また、1〜2年ほど時間がかかる本訴訟と比べて、仮処分は2週間~2ヶ月程度で結論が出ます。
誹謗中傷の書き込みは拡散するリスクがあるので、迅速に対策しなければなりません。被害の拡大を防止するには、短期間の仮処分申請を利用するのがおすすめです。
発信者を特定し損害賠償を請求する
最後に、発信者を訴えて損害賠償請求する方法があります。ただし、発信者を特定しなければ発信者を相手方にした訴訟を提起することができないので、発信者を特定する制度を利用する必要があります。
ここからは、発信者を特定して損害賠償請求する手順を説明します。(なお、削除請求と損害賠償請求の両方を行いたい場合は、削除請求する前にコンテンツプロバイダに対する発信者情報開示請求を先に行う必要があるので、ご注意ください。)
ネット上の匿名の投稿者を特定する方法として、プロバイダ責任制限法に規定されている「発信者情報開示請求」があります。発信者情報開示請求とは、ネット事業者に対して複数回の裁判手続きを経ることで、発信者の個人情報を開示させる制度です。
まず、掲示板やSNSのサイト運営者等のコンテンツプロバイダに対して、IPアドレス・タイムスタンプの開示請求をおこないます。
さらに、携帯のキャリア等である経由プロバイダに対して、IPアドレス・タイムスタンプの利用者の氏名や住所を開示請求します。これらの請求が認められることで、発信者の身元を特定することができ、損害賠償請求できるようになります。
誹謗中傷で被害届を受理してもらえるケース
それでは、被害届についてより詳しく説明します。
被害の程度が軽微である誹謗中傷の場合は、被害届が受理されない場合があります。事件性・犯罪性が低い被害届まで全て受け取ってしまうと、警察官の人手が足りなくなってしまい、他の重大な事件に手が回らなくなってしまうからです。
では、被害届を受理してもらえるケースはどのようなものでしょうか。犯罪類型に分けて説明します。
名誉棄損罪になる場合
名誉毀損罪は、他人の名誉を傷つける発言をしたときに成立する罪です。では、犯罪行為である名誉毀損をされた場合、被害届を提出できるのでしょうか。
この点、名誉毀損された場合の解決法として、民事訴訟における慰謝料請求があります。
警察は「民事訴訟で解決できそうな事件に関しては、警察は介入しない」という民事不介入の原則があるので、基本的に慰謝料請求で解決できそうな事案の場合は被害届を受理しません。
ただし、誹謗中傷の内容が悪質で、投稿者が何度も投稿を繰り返しているといった場合は、犯罪性が高い事案として被害届が受理されます。
例えば、長崎県の県職員は、同県に住む30代の女性に対して、実名を出して誹謗中傷を10回程度行ったとして、ストーカー規制法違反と名誉毀損の容疑で逮捕されました。
脅迫罪になる場合
脅迫罪は、相手の生命や身体、財産などに危害を加えると告知した場合に成立する罪です。
脅迫行為についても、違法性が軽微である場合は被害届を受け取ってもらえない場合があります。主観的に被害者が恐怖を感じていても、客観的に加害者の行動が人を畏怖させる程度に相当するものであるとは限らないからです。
一方で、「明日お前を殺してやる」といった殺人予告などは、生命・身体に危険が及ぶリスクが高いため、被害届は原則として受理されます。
業務妨害罪になる場合
業務妨害罪は、他人の業務を妨害したときに成立した罪です。業務妨害罪は、妨害の手段によって「偽計業務妨害罪」と「威力業務妨害罪」に分かれます。
例えば、レストランの口コミに、「虫が入った料理を提供された。あの店には絶対行ってはいけない」と嘘の情報を書き込むことで営業を妨害した場合には、偽計業務妨害罪が成立します。
一方で、無差別殺人や施設等の爆破などの犯行予告をした場合は、威力を用いて相手の業務を妨害しているので威力業務妨害罪が成立します。
いずれも犯行がなされた際に発生する損害の程度が極めて高いため、被害届を受け取った警察は捜査に移ります。
被害届を出すまでの流れ
犯罪性が軽微である被害届は受理されない場合があるので、まずは、犯罪の捜査をするに足りる事件であるか確認しましょう。確認の際は、弁護士や警察に相談するのがおすすめです。
特に、弁護士に相談すると、法律の説明を受けながら正しい被害届の書き方を教えてもらうことができます。また、場合によっては、警察署で一緒に被害届を提出してくれる場合もあります。法律事務所によっては初回に無料で相談できる場合もあるので積極的に活用しましょう。
犯罪性があるものだと確認できたら、次は被害届を提出します。被害届には、被害内容についての詳細を記載する必要があります。後の裁判では証拠の有無が重要になるので、併せて誹謗中傷の書き込み内容をスクリーンショットで控えておきましょう。
被害届に記載する内容
被害届の書式は特に決まっていませんが、記載する内容は、大きく分けて個人情報と被害の詳細の2種類です。
個人情報には氏名、連絡先、住所、所属先(職場や学校など)を記載します。被害詳細については、犯人に関する情報(SNSアカウント名など)、被害日時(誹謗中傷が書き込まれた日と時間)、被害詳細(書き込まれた誹謗中傷の内容)、被害内容(誹謗中傷によって生じた被害)を具体的に記入します。
被害届を出した後はどうなる?
被害届を提出することで、警察による捜査開始のきっかけになります。ただし、被害届を提出したとしても、実際に捜査してくれるかは別問題になります。ここからは、被害届を出した後に、警察が動いてくれるケースと動いてくれないケースについて説明します。
動いてくれるケース
「無事でいられると思うな」など、殺人や傷害などの刑事事件に発展する可能性が高い誹謗中傷は、多くの場合で警察が捜査してくれます。
また、殺人や傷害に至るリスクは少なくても、長期間にわたって何度も誹謗中傷を受け続けているといった場合にも、警察が捜査してくれる可能性があります。脅迫まがいの文言が含まれているケースや、長期にわたって誹謗中傷を受け続けているケースでは、積極的に警察に相談しましょう。
動いてくれないケース
「アホ」「バカ」などの口喧嘩の場合は、緊急性が低いため警察が動いてくれない場合があります。
また、犯行から何年も経過してから被害届を提出した場合も、警察が対応してくれない場合があります。何年も経った事件の証拠を集めるのは大変なことが多く、時効期間内に起訴できるかどうかわからない場合もあります。
その場合、殺人のような重大事件でない限りは、まともに対応してもらえない可能性が高いです。
まとめ
誹謗中傷をしてきた加害者に、厳しく責任を追及したいと思っている人は多いと思います。その場合は、被害届を出すことによって刑事上の罪で犯人を処罰することができます。
ただし、全ての場合で被害届が受理されるわけではありません。警察が動くに足りる誹謗中傷でなければ対応してくれないケースもあります。
一般の方では、警察が対応してくれるかを判断するのが難しいケースが多いので、まずは弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。