名誉毀損とは
名誉毀損とは、公然と事実を摘示することで、他人の名誉を傷つけることです。名誉毀損行為は、犯罪として刑事罰や損害賠償責任等を根拠づける不法行為の対象になる場合があります。
例えば、SNSなどで「〇〇は結婚しているのに、配偶者以外の異性と不倫している」と言いふらした場合、名誉毀損行為が認められて刑事または民事上の責任を追及されるおそれがあります。
名誉毀損が認められる要件
名誉毀損の成立要件は、「公然」と「事実を摘示」し、「他人の名誉を毀損」することです。ここでは、「公然」「事実を摘示」「名誉を毀損」の意味がポイントになるので、それぞれの意味を以下に解説します。
「公然」とは、不特定または多数人の認識しうる状態を意味します。SNSの書き込みは、一部のダイレクトメッセージなどを除いて、様々の人が視認できる状態にあるので公然性が認められます。
なお、特定少数者に対してメールをした場合でも、不特定または多数人への伝播可能性がある場合は公然性が生じます。
「事実を摘示」とは、他人の社会的評価を下げるに足りる具体的事実を告げることを意味します。
事実は、真実であっても虚偽のものであっても構いません。すなわち、「〇〇は不倫している」と言いふらせば、たとえ不倫していることが真実でも「事実」に当たります。
ここでいう「名誉」とは、自尊心などの主観的名誉(名誉感情)ではなく、世間から受ける外部的名誉(社会的評価)を意味します。
つまり、名誉感情を持たない幼児や法人であっても、名誉毀損の客体になります。
名誉毀損と認められた最近の事例
ここからは、近年、SNSなどに書き込んだ発言が名誉毀損と認められた事例についていくつか紹介します。
2021年5月24日、yahooニュースのコメント欄に50代の大阪府高槻市議を中傷する虚偽の投稿をしたとして、茨木区検は同市の30代男性を名誉毀損罪で略式起訴していたことが分かりました。茨木簡裁は5月27日付で罰金10万円の略式命令を出しました。
告訴状や高槻署などによると、男性は2018年10月、高槻市議がおこなった住民監査請求に関する記事のコメント欄に、市議が所属したことのない宗教団体の名前を挙げた上で「アイツの遊説場所に出くわしたら、幸運を呼ぶ痰壺みたいなのを買わされそうになった」とデマの投稿をして、市議の名誉を毀損したとされています。
SNS上の投稿で名誉を傷つけられたとして、作家・投資家のX氏が、動画配信サイトを運営するY氏を相手取り、Y氏がSNSで書き込んだ10の投稿内容について、損害賠償500万円を求める訴訟を提起しました。
東京地裁は2021年3月26日、Y氏が書き込んだコメントのうち、「X氏は、普段、根拠のない憶測を知ったかぶりで書いているだけなので、たまに根拠のあるときはつい嬉しくなってしまって相手のことなど考えずに情報源をばらしてしまう人間だということです」と投稿した内容について名誉毀損が成立すると判断しました。
大阪県知事である原告は、被告である前新潟県知事が投稿した「異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足する…(略)」というツイートに対して社会的評価を下げられたと主張し、550万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。
大阪地裁は2018年9月20日、「言い争いに関連して、大阪府知事が投稿のような態度を取ったとはいえない」と名誉毀損を認めて、前新潟県知事に33万円の支払いを命じました。
名誉毀損が認められたらどうなるの?
ネット上の掲示板やSNSで誹謗中傷の被害に遭い、加害者を訴えた場合、法律上では民事責任と刑事責任の2種類の責任を問うことができます。まずはそれぞれどういった責任かを解説していきます。
民事責任
民法第709条は不法行為に対する責任を規定しています。
そのため、故意か過失かに関わらず、名誉毀損によって損害を与えた側は不法行為責任を負い、被害者に損害賠償する義務を負います。
不法行為によって生じる責任は損害賠償や慰謝料がほとんどですが、ネットでの誹謗中傷の場合には名誉回復措置が含まれる場合もあります。それぞれの責任の内容は以下の通りです。
不法行為により被害者が受けた損害の賠償で、基本的には金銭で支払われます。損害賠償が認められるためには、加害者の名誉毀損行為と被害者が受けた損害との間に因果関係が認められる必要があります。
例えば、「名誉毀損発言によって店の売上が減少した」と主張しても、加害者の名誉毀損行為によって売上が減少したかを証明することは困難ですので、名誉毀損行為と損害との間の因果関係を認めてもらうのは難しいことが多いです。
不法行為に受けた被害のうち、精神的損害に対して請求するものを慰謝料といいます。
民法第710条は、不法行為によって生じた「財産以外の損害」についても賠償する責任を規定しています。名誉毀損によって受けた精神的損害は「財産以外の損害」にあたるため、SNSで信用を傷つけられたときは、民法710条を根拠にして精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。
誹謗中傷をされた場合、たとえ賠償金を支払ってもらったとしても、該当する書き込みが残ったままでは傷つけられた評判は回復しません。そこで、民法第723条を根拠にして、加害者に名誉回復措置をとってもらいます。
民法第723条は、他人の名誉を傷つけた者に対して、裁判所は加害者に名誉を回復する措置をとるよう命令を出すことができると規定されています。
例えば、新聞や週刊誌などで謝罪広告を掲載することで、被害者の名誉の回復を図ります。このように、民法上の責任は、被害者が受けた損害を賠償することが目的になります。
刑事責任
刑法上の犯罪に該当する行為をすると、逮捕されたり、懲役刑などの刑罰に処せられます。
刑事責任の内容は、加害者の行為が刑法上、どのような犯罪にあたるかで変わってきます。例えば、名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」になります。
刑法の目的は、犯罪行為を予め規定して「どれが違法か」を国民に明示して行動の自由を保障するとともに、犯人に刑罰を与えることです。
書き込みしてきた相手を名誉毀損を訴えるには
ネット上で名誉毀損に当たる発言をしてきた発信者を訴えることはできるのでしょうか。ここからは、名誉毀損してきた犯人を訴える手順を説明します。
1.証拠を残す
投稿者を訴えて裁判で争う際は証拠が必要になります。投稿者が書き込みを削除してしまった場合、裁判で不利になってしまうおそれがあるため、該当の書き込みをスクリーンショットをとるなどして、必ず証拠を残しておきましょう。
2.投稿者を特定する
誹謗中傷の発信者を訴えたい場合は、削除請求をする前に、書き込みを行った犯人を特定する必要があります。投稿者を特定するには、プロバイダ責任制限法に規定している「発信者情報開示請求」をする必要があります。
発信者情報開示請求とは、インターネット上で他者を誹謗中傷するような表現を行った発信者の情報(住所・氏名・電話番号等)について、プロバイダに対して、情報の開示を求める制度です。
まず、インターネット掲示板などのサイト運営者等のコンテンツプロバイダに対して、IPアドレス・タイムスタンプの開示請求をします。さらに、携帯のキャリアである経由プロバイダに対して、IPアドレス・タイムスタンプの利用者の氏名や住所の開示請求をすることで、誹謗中傷の発信者を特定することができます。
3.訴えを提起する
相手の特定と証拠が確保できれば、後は加害者に対して、民事訴訟や刑事訴訟を提起します。裁判手続については、民事と刑事に分けて説明します。
民事訴訟手続
民事訴訟手続では被告に慰謝料を請求することが目的になります。
基本的には、いきなり裁判というよりは、まずは被告の住所に内容証明郵便を送付し、名誉毀損記事の削除や慰謝料を請求する旨を告知します。それでも解決に至らない場合は、次に、訴状を作成して裁判所に提出します。
民事裁判では、口頭弁論を複数回おこなって判決に至ります(話し合いでの解決もあります)。
刑事訴訟手続
刑事訴訟手続きについては、被害届や告訴状を作成して警察署に提出します。
警察で受理されると、捜査が開始されます。犯人の特定や投稿内容の確認などがおこなわれ、立件する必要があると判断されると、検察庁に事件記録が送付されます。そして、検察官が事件を起訴することで刑事裁判が開始します。
刑事裁判では、裁判官、検察官、被告人(弁護人)が出席して、起訴された事実につき審理して、最終的に判決が下されます。
まとめ
インターネットの書き込みは、内容によっては名誉毀損に問うことができます。もし誹謗中傷の被害にあったら、落ち着いて犯人に法的責任を追及しましょう。
書き込みの相手を名誉毀損で訴えるなら、弁護士に相談するのが安心です。弁護士に事件を依頼することで、相手の書き込みがどのような罪にあたるかを教えてくれるだけでなく、訴訟手続きや事務手続きなどを全て代理でおこなってくれます。