個人再生は、裁判所により決められたタイムスケジュールに沿って手続きが進められます。
個人再生を検討するにあたり、手続きの流れをおおまかにでも理解しておくことは有益です。
1 個人再生の手続き開始までの流れ
「個人再生」とは、大きく減額された借金について再生計画案を策定し、裁判所に認可してもらうための手続きです。
再生計画案が裁判所に認可されると、債務者は、再生計画案に基づいて借金を返済していくことになります。
このように、個人再生は、裁判所を通さなければならないため、以下で見ていくように、手続きの流れも複雑です。
そのため、個人再生を申し立てる場合には、弁護士に依頼することが一般的になっています。
個人再生手続きを実際に開始するためには、裁判所に個人再生を申し立て、手続きの開始決定を受ける必要があります。
具体的には、以下のようなプロセスを経ることになります。
(1)個人再生をするならまず弁護士に相談
まずは、弁護士に相談することから始まります。
とはいえ、どのようにして弁護士を探せばいいのかわからないという方もいらっしゃると思います。
現在では、無料相談を実施している法律事務所も増えてきていますので、まずは、無料相談を利用することをお勧めします。
その際にはまた、債務整理に実績のある弁護士を選ぶと良いでしょう。債務整理に実績がある弁護士であれば、手続きの流れや申立てがうまくいくポイントなどを熟知しているため、適切なアドバイスを受けられ、スムーズに手続きを進めてくれます。
初回相談では、主に、借金の総額や収支状況、財産の有無、家族構成などといったことについて弁護士による聴き取りが行われます。
そのうえで、弁護士は個人再生手続きを利用できるかどうかを判断することになります。
個人再生の申し立てについて弁護士に依頼することが決まると、弁護士との間で委任契約を締結します。
ここでいう「委任契約」とは、個人再生手続きを弁護士に依頼することを内容とした契約のことをいいます。
委任契約の締結後、弁護士は、各債権者に「受任通知」を発送します。
ここでいう「受任通知」とは、弁護士が債務者の代理人として債務整理業務を開始することなどを記載した通知のことをいいます。
受任通知を送ると、債権者から債務者への直接の請求や連絡がストップします。
また、受任通知を送る際にはでは、各債権者に対し、債務者との取引履歴を開示するように併せて請求するのが一般的ですします。
取引履歴が開示されるまでの期間は、債権者によってまちまちですが、受任通知を発送してからおよそ2ヶ月~3ヶ月程度であることが多いです。
(2)収入や家計、財産などの調査を行う
個人再生では、一般的に3年~5年(原則3年)の長期分割で借金を返済していくことになります。そのため、個人再生の手続きを利用するためには、債務者に安定した収入を継続的に得られる見込みがあることが必要です。
弁護士は、この点を判断するために、債務者の収入や家計状況を確認するなどして、債務者がきちんと返済していくことができるかを調査します。
具体的には、給与明細や確定申告書、月々の収支状況などを確認することになります。
(3)個人再生の申込書の作成と申し立て
個人再生手続きを開始するためには、裁判所に個人再生を申し立てることが必要です。そのためには、申立書のを作成することをはじめ、債権者一覧表や源泉徴収票収入一覧・主要財産一覧、家計全体の状況など申立時に必要となる書類を作成・収集する必要があります。
また、自宅を所有していて住宅特別資金条項(住宅ローン特則)を利用する場合には、住宅にかかる登記事項証明書や住宅ローンの契約書、住宅ローンの償還表なども準備が必要です。
このように、個人再生を申し立てるためには、書類を作成したり多くの資料を収集します。これらのことを自分で対応することは可能ですが、自分で対応すると、時間や手間が膨大にかかり、結果として、個人再生を申し立てる時期が大きく後ろにずれ込んでしまう可能性が高いでしょう。
この点、手続きに精通している弁護士に依頼すると、書類作成はもちろんのこと、債務者が揃えるべき資料についても、前もって適切なアドバイスを受けられますので、個人で対応するよりも早い段階で個人再生を申し立てることが可能になります。
個人再生の申し立てを行うためには、依頼者の方に様々な資料を集めて頂くことになるが、銀行口座の通帳のコピーもその一つです。
長い期間記帳をしていないと、1行にまとまってしまうので、その場合銀行の窓口で取引履歴の開示を請求しなければなりません。
(4)個人再生委員の選任と打ち合わせ
東京地方裁判所では、個人再生が申し立てられると、個人再生委員が選任されることになっています。
ここでいう「個人再生委員」とは、申し立てられた個人再生について、手続き全般を指揮・監督する人弁護士のこと(主に弁護士)をいい、主に弁護士が裁判所により選任されることになっています。
手続きが終わるまでの間、適宜個人再生委員とやり取りをしながら、手続きを進めることになります。
なお、東京以外の裁判所では、原則として個人再生委員を選任しない運用となっているところもあります。
個人再生委員が選任される場合、申立てから1週間~2週間の間に個人再生委員との打ち合わせが実施されます。
この打ち合わせは、債務者の代理人となった弁護士と債務者、そして、個人再生委員の三者間で行われます。
この場で、裁判所に提出した申立書の記載内容や提出資料について、個人再生委員から質問があったり、不明点を明らかにするよう宿題を課されることもあります。
(5)履行可能性テストを行う
「履行可能性テスト」とは、債務者がきちんと借金を返済していくことができるかを確認するために行われるシミュレーションのことをいいます。
東京地方裁判所では、履行可能性テストが実施される運用になっています。
具体的には、一定期間、債務者に対し、毎月決まった金額(計画弁済予定額)を個人再生委員の指定口座に振り込ませることで、債務者が借金を返済していくことができるかを判断します。
履行可能性テストは、申立後1週間以内に第1回目の振込みを行うというスケジュールになっており、その後6ヶ月程度テストが続くことが一般的です。
履行可能性テストにおいて、振り込みが遅れがちになったり、振り込み自体が延滞するようなことがあると、裁判所から再生計画の認可個人再生手続きの開始決定を受けられなくなる可能性があります。
個人再生委員との打ち合わせの結果、特に問題がなく、また、履行可能性テストによる振り込みにきちんと対応すると、裁判所から個人再生手続の開始決定が出されます。
このように、個人再生手続きの開始決定を受けるまでには、多くの準備が必要となり、個人再生委員との打ち合わせ等(個人再生委員が選任される場合に限ります、)も行わなければなりません。
2 個人再生手続の開始決定後の流れ
裁判所から再生計画案の認可決定が出ると、債務者は、再生計画案に従って、翌月から弁済を開始することになります。裁判所から認可決定を受ける際に、重要視される「再生計画案」を策定することになります。
具体的には、以下のようなプロセスを経ることになります。
(1)債権届出
個人再生手続の開始決定が出ると、裁判所は各債権者に対し、再生手続開始決定書を発送するとともに、設けた期限までに債権を届け出るように通知します。
これを受けて、各債権者は、自社の債権額を裁判所に届け出ることになります。
(2)債権認否一覧表の提出
「債権認否一覧表」とは、各債権者から届出のあった債権額について、債務者側でその金額を認めるかどうかを認否する(認めるか認めないか)書面のことをいいます。
債務者は、各債権者から届出のあった債権額について認否した「債権認否一覧表」を裁判所に提出します。
なお、債権届出の期間が終了して2週間後に、次で見る一般異議申述期間が開始します。「債権認否一覧表」は、一般異議申述期間が開始される初日までに提出することになっています。
(3)異議の申述
債務者は、各債権者から届出のあった債権額について異議を述べる場合は、債権認否一覧表と併せて「異議申述書」を裁判所に提出が必要となります。
債務者が異議を述べない場合には、債権認否一覧表で認めた内容で債権が確定します。
他方で、債務者が異議を述べた場合には、債権そのものが存在するかどうか、また、債権が存在するとしてその金額がいくらなのか等を「債権評価の手続」で決めることになります。
ここでいう「債権評価の手続」とは、個人再生委員による債権調査・意見を参考に、裁判所が債権の存否や金額等を決定する手続きのことをいいます。
(4)再生計画案の作成と提出
各債権者から届出のあった債権額がすべて確定すると、再生計画案を作成・提出します。
ここでいう「再生計画案」とは、大きく減額された借金の支払方法を定めた計画のことをいいます。
弁護士は、債務者にかかるさまざまな事情を考慮しながら、再生計画案を策定します。
個人再生は、原則3年間[/color]で圧縮された債務を支払っていくが、特別な事情がある場合には、裁判所の許可をもらって最長5年とすることができることもあります。
そのため、再生計画案による返済が困難になることがないよう、債務者の借金総額や収支状況、家族構成など、さまざまな事情を考慮したうえで、債務者にとって無理のない再生計画案を策定する必要があるのです。
再生計画案について「再生計画が遂行される見込みがない」と裁判所に判断されると、再生計画案は不認可となります。再生計画案が不認可となってしまうと、借金は減額されないまま、手続きは終了してしまいます。
この場合、債務者は、不認可となった理由を解消したうえで、再度個人再生を申し立てるか、もしくは、任意整理で債権者と個別交渉するか、自己破産を申し立てるしかなくなります。
裁判官は、債務者がきちんと再生計画案に従った返済をしていけるか、という観点から、再生計画案の審査を行うため、弁護士はその点にも配慮しながら、再生計画案を作成策定します。
たとえば、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用する場合には、再生計画案に基づく返済に加え、住宅ローンも支払っていく必要があるため、裁判官の審査はより厳しくなります。
以上のように、手続きの開始決定が出てから、再生計画案の認可決定を受けるまでのプロセスは、個人再生の手続きの中でも重要なプロセスです。
(5)再生計画の決議
再生計画案の提出後、再生委員から裁判所に書面決議に付するかの意見書が提出され、裁判所が決定します。
各債権者は、再生計画案に対する同意・不同意の意見を裁判所に提出しますが、小規模個人再生の場合には、債権者の頭数の半数以上もしくは借金額の過半数の反対があった場合には再生が認められません。
再生委員は、裁判所にその結果を踏まえて認可するか不認可にするかの意見を提出します。
3 裁判所による再生計画認可後の流れ
裁判所により、再生計画案について認可決定が出ると、そのことが官報に掲載されることになります。官報に掲載されるのは、再生計画案の認可決定日からおよそ2週間後とされています。官報に掲載されてから、さらに2週間が経過することにより、裁判所による認可決定は確定します。
認可決定の確定後、債務者は、再生計画案に基づいて借金を返済していくことになります。個人再生を申し立てて、実際に返済を開始するまでの期間は、およそ6ヶ月程度であることが一般的です。
よくある質問
4 まとめ
今回説明してきた通り、個人再生を選択する際には、手続きによるメリット・デメリットを踏まえたうえで、さまざまな観点からの判断が必要で、簡単なことではありません。
個人再生の手続きは、裁判所により細かく決められたタイムスケジュールに沿って進められます。この間に、個人再生委員との打ち合わせや履行可能性テスト、債権認否や再生計画案の作成策定などといったように、対応が必要な点が数多くあります。
そのためにはこれらのことを個人で対応するには、一定の法的知識があることや手続きについて一定の理解があることが求められます。
個人で対応するのは困難といえるでしょう。手続きに失敗しないためにも、弁護士に依頼することをお勧めします。
あまた法律事務所では、債務整理において多くの案件を手がけてきた弁護士が、それぞれの相談者に適切なアドバイスを行っております。