交通事故の被害に遭うと、加害者に請求できる慰謝料。ですが、実は一般に慰謝料といわれるお金は損害賠償の一部で、他にも治療費など様々なお金を請求できます。
交通事故の慰謝料と損害賠償の違いとは
損害賠償とは、民法で定められている不法行為に対する賠償金のことで、そのうち、精神的苦痛に対する補償を目的とするものを慰謝料といいます。つまり、慰謝料は損害賠償の一部を指す言葉になります。
慰謝料は損害賠償の一部
民法709条には、「故意または過失によって他人の権利または法律で保護される利益を侵害した者は、それによって生じた損害を賠償する責任を負う」とされています。これを金銭で支払うのが損害賠償です。
一方、710条には、「他人の身体・自由・名誉・財産権」を侵害した場合には、財産以外の損害についても補償する義務を負うと定められています。これを根拠に、精神的苦痛に対する補償として慰謝料請求権が発生します。
精神的苦痛は本来、金銭に代えられるものではありませんが、法律上は原則、金銭で支払うこととされています。交通事故に遭った場合も、事故によりケガを負ってしまったことなどへの精神的苦痛に対して慰謝料を請求することが可能です。
交通事故の損害賠償は3種類に分類
交通事故の際、相手方に請求できる損害賠償は大きく「積極的損害」「消極的損害」「慰謝料」の3つに分けられます。こうした損害はすべて加害者に賠償する責任があります。
・消極的損害……事故によって被害者が得ることができなくなった経済的利益。事故がなければ得られていたはずの収入などに対する補償。
・慰謝料……事故による精神的・肉体的苦痛に対する補償。
上2つの損害は、財産に関する損害である「物損」の賠償に当たり、慰謝料のみが精神的な損害を賠償するお金です。続いて、それぞれの賠償金にはどのようなお金が含まれているのか、さらに詳しく明細をみていきたいと思います。
積極的損害の明細について
まずは事故によって発生した出費に対する積極的損害から解説します。事故に遭わなければ本来は発生しなかった損失で、事故のため実際に支払ったものが積極的損害になります。
治療費
事故により病院に入通院した際の費用で、診療費や薬代、検査費用、手術代、リハビリ費用などが含まれます。請求は基本的に加害者の加入している保険会社に実費で行います。
認められるのは医療行為として必要かつ相当と判断されるもののみで、温泉治療や漢方治療、鍼灸治療など自分の判断で行ったものに関しては支払われないことが多いので注意が必要です。医師の指示に基づいて行われた治療の費用はおおむね還ってくると考えていいでしょう。
付添看護費
事故によるケガのため、入通院時に付添での看護を受けなければならなくなったときの費用です。職業看護人の場合は全額実費で請求でき、家族など近親者に付き添ってもらった場合は1日あたりの金額が決められています。
また、付き添いのために家族がホテルや交通機関を利用したときの宿泊費や交通費なども請求可能ですので、こうした領収書もしっかり保管しておきましょう。
交通費
ケガで医療機関に通院するとき交通機関を利用するための費用です。全額実費で請求できますが、こちらも治療費と同じく、認められるのは妥当性・必要性があると判断されるもののみです。
自家用車で通院する場合は、ガソリン代をはじめ、駐車場代、高速料金なども請求できます。こちらも領収書などは保管しておくようにしてください。
入院雑費
事故で入院したときに必要になる諸々の費用で、1日あたり1500円程度払ってもらえます(弁護士基準)。入院時のパジャマやティッシュ、日用品、文房具など消耗品・日用品の代金や公衆電話で使用するテレホンカード、新聞、雑誌、テレビカードの購入費などが含まれます。
器具・装具費用
事故でなんらかの後遺症が残ってしまったとき、リハビリやその後の生活で義足や義手、義眼といった器具・装具などが必要になったときに請求できる費用です。
基本的には購入やレンタルの費用を実費で請求しますが、将来買い替えなどが必要になることを計算に入れて、中間利息を差し引いた将来分までの請求も可能です。
自宅の改装費
後遺症により、自宅のバリアフリー化工事などが必要になった場合には、家屋改修費用として改装代金を請求できます。認められるのは、被害者の介護に必要なものだけです。例えば、足に障害が残ったためホームエレベーターを設置するのなら良いですが、家族の利便性向上のため設置するのなら認められません。
車両改造費
同じく、後遺障害のため車を身体障害者向けに改造しなければならなくなったときの費用です。こちらも家の改装費と同様、必要と判断されたもののみ請求できます。
介護費用
遷延性意識障害(いわゆる植物状態)や四肢の麻痺、高次脳機能障害など非常に重い後遺障害が残り、介護がなければ生活ができなくなった場合には、介護費用を請求できます。職業介護人の場合は実費で請求を行い、近親者が介護する場合は1日当たり8000円程度が基準になります。
葬儀関係費用
不幸にも被害者が死亡してしまった場合には、葬儀等にかかる費用を請求できます。葬儀そのものの費用はもちろん、火葬・埋葬料金、読経・法名料、花代、お布施、仏壇などの購入費、遺族の交通費、四十九日法要費などが含まれますが、多くの場合、150万円が限度とされます。また香典返しの費用は請求できないことがほとんどです。
修理費用
交通事故で壊れてしまった車の修理代は加害者に請求できます。金額は修理工場の見積もりをもとに保険会社との話し合いで決定します。事故前からあった傷の修理や不要な作業を含めることはできません。
代車費用
事故のため車が壊れてしまい、代わりの車を用意しなければいけなくなったときは、レンタカー代などを代車費用として請求できます。認められるのは、事故との関係から必要と判断できる範囲のみで、あまり長期間代車を使用していると、全額が損害と認められなくなる場合もあります。
評価損(格落ち損)
事故車になると、中古車市場などで車の価値が下がってしまうため、その分の損害を評価損(格落ち損)として払ってもらうことができます。評価損は、車が修理不能になって性能的な低下を起こす技術的なものと事故車が中古車市場で敬遠されるという理由からくる取引上のものの2種類に分けられます。
その他の物損費用
車についていたカーナビやテレビが事故で壊れたときや一緒に乗っていたペットがケガをしたときなどは、買い替えや取り付けの費用、動物病院の治療費なども請求できます。
弁護士費用
加害者との示談交渉や訴訟で弁護士への依頼費用を請求できるケースがあります。弁護士費用を請求できるのは、裁判で加害者への支払い命令が出されたときに限られ、裁判で認められた損害額の10%が受け取りの目安になります。
示談や調停など裁判以外の方法で決着をつけた場合は、基本的に弁護士費用を請求することはできません。
損害遅延金
事故から損害賠償支払いまでのタイムラグに対して支払われるお金です。交通事故による損害賠償金は通常、加害者との示談が成立した後しか受け取ることができません。その間、被害者はずっと損害を受けたままの状態になってしまいます。この期間を加害者による支払い遅延状態と位置づけ、損害遅延金を請求できます。
消極的損害の明細について
続いては、消極的損害にはどのような賠償金が含まれているかをみていきます。こちらは、事故に遭わなければ将来手に入っていたと考えられる利益で、事故のために得られなくなってしまった損害を補償するものです。
休業損害
事故で仕事を休まなければならなくなった場合には、そのための収入減少分を加害者に請求できます。会社員の場合は直近3か月の給与明細から、個人事業主では確定申告書をもとに1日当たりの収入を計算し、損害額を導きます。会社員なら有給休暇を使って休んだ場合にも請求可能です。
また、専業主婦あっても、平均賃金などをもとにして収入を計算できますし、失業中でも近い将来仕事に就く可能性がある方なら請求できる可能性が高いです。
後遺障害逸失利益
事故による後遺症で今までの仕事を続けられなくなったときは、働いていれば将来得られたであろう収入を逸失利益として加害者に請求できます。休業損害と似ていますが、休業損害は病状固定までに支払われるのに対して、こちらは病状固定後の損失を補填するものです。逸失利益も休業損害と同様に事故前の収入をもとに計算されます。
専業主婦でも平均賃金をもとに請求できますし、子どもや学生でも、将来就職して働いていたはずが事故によってそれができなくなったとみなされるため請求可能です。
労働能力喪失率は、後遺症によってどれほどの労働力が失われたかを表すもので、後遺障害等級で決まります。ライプニッツ係数は将来受け取っていたお金を現在の価値で見るとどの程度になるかを算定するための係数で、働けなくなった期間(67歳まで働くとして計算)をもとに決められます。
仮に年収400万円の35歳男性で後遺障害6級の認定を受けたケースだと、
「基礎収入400万円」×「労働能力喪失率67%」×「労働能力喪失期間32年に対するライプニッツ係数20.389」=5464万2520円となります。
死亡逸失利益
交通事故の被害者が死亡したとき、生きていれば将来得られるはずだった収入を補填するものです。死亡逸失利益の計算は以下の式で行います。
基礎収入やライプニッツ係数は後遺障害逸失利益と同じですが、こちらは生活費控除率と呼ばれるものが入っています。被害者が死亡したことで本来なら必要になるはずだった生活費などがかからなくなる面もあるため、そうした支出の抑えられた分を生活費控除率として計算しています。
専業主婦や子ども、高齢者、失業中などの場合も平均賃金をもとに請求できます。基本的には、被害者の年齢が若く、基礎収入が高いほど受け取れる逸失利益も高額になります。
慰謝料の明細について
最後に精神的損害の補填を目的とする慰謝料の種類について解説します。交通事故で発生する慰謝料には大きく、以下の3種類があります。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)
事故により、病院など医療機関へ入通院しなければならなくなったことへの精神的苦痛に対して請求できる慰謝料です。ケガの治療期間をもとに計算されるので、重いケガで入通院期間が長くなるほど慰謝料も高額になります。
しかし、重いケガでなければならないわけではなく、軽症でも受け取ることができますし、事故当日に念のため病院に行ったときのように、通院1日からでも請求可能です。
後遺障害慰謝料
事故で後遺症が残ってしまったときに請求できる慰謝料です。どのような後遺症でも受け取れるわけではなく、請求するには後遺障害等級の認定を受ける必要があります。後遺障害の認定には、医師に後遺障害診断書を書いてもらい、損害料率算出機構(自賠責損害調査事務所)という専門機関に書類を提出して審査を受けます。
後遺障害は1級から14級までの等級に分かれていて、1級が一番重く、数字が大きいものほど軽症になります。いくつかの等級に同時に当てはまるケースもあり、その場合は重い方の等級を繰り上げる「併合」といわれる制度が適用されます。
死亡慰謝料
事故で被害者が亡くなったときに請求できる慰謝料です。死亡慰謝料には以下の2種類があります。
死亡した本人への「死に至らしめられたこと」に対する精神的苦痛への慰謝料です。本来、本人に支払われるべきものですが、本人がすでに死亡しているため、遺族のなかから選出された「相続人」が代わりに受け取ります。
遺族への「近しい人を失ったこと」に対する精神的苦痛への慰謝料です。民法711条には近親者に対する損害の賠償が定められており、他人の生命を侵害したものは、その両親や配偶者、子どもに対して、直接その財産権を侵害していない場合でも損害を賠償しなければならないとしています。
損害賠償請求書に記載する内容
ここまで、交通事故の際、加害者に請求できる慰謝料などの損害賠償金の明細をみてきました。ここからは、実際に損害賠償を請求するとき、相手方に提出する損害賠償請求書に関して解説します。
損害賠償請求書とは
交通事故の損害賠償を加害者に請求する際に必要になる、賠償金の明細が記載された請求書です。加害者が任意保険に加入している場合は、相手の保険会社から損害賠償を提示してくるため、それほど気にする必要はありません。
しかし、任意保険未加入のケースなどでは、こちらが請求書を作成して具体的な請求を行わなければ、賠償金受け取りに支障をきたす恐れもあります。
損害賠償請求書に記載・添付する事項
請求書には、具体的にどのような賠償金を請求するのか、各項目に分けて金額を記載する必要があります。最低でも、次の項目に関しては金額と根拠となる書類等を添付するようにしましょう。
- 治療関係費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
- 通院交通費など
(事故でケガをした場合の例。後遺症が残った場合は後遺障害慰謝料や逸失利益も請求する)
請求書には、上の項目の根拠となる資料も添付してください。
・休業損害証明書(勤務先に作成してもらう)
・診断書(医師に作成してもらう)
・診療報酬明細書
・交通費の明細書
など
これらの書類がなければ賠償金が絶対に受け取れないわけではありませんが、請求をスムーズに進め、金額に説得力をもたせるためにもできる限り用意するようにしましょう。
交通事故の損害賠償を請求する際に気を付けること
相手方に損害賠償を請求する上で、他に注意したいポイントを解説します。
請求書を送付する際の注意点
損害賠償請求書の送付には、基本的に特別なルールは存在しません。普通郵便はもちろん、メールやファックスで送っても構いません。ただ、内容証明郵便を利用する場合には、以下のように一定のルールがあるため注意が必要です。
- 1枚の文字数は520文字以内(縦書きなら26行×20文字以内。横書きなら20行×26文字以内または40行×13文字以内とすること)
- 通知文を送付する制度のため資料などを添付することはできません。
形式に不備があると窓口で受け付けてもらえないことがあります。資料を一緒に送りたいと考えている場合は、他の手段を利用するか、資料のみ普通郵便で郵送するといった方法を採ってください。
内容証明郵便は相手方に送付したことが証明できるメリットはあるものの、制約も存在するため、時効寸前でいつ送付したかが大きな問題になるケースを除けば他の方法を用いても特に問題ないといえます。
まとめ
交通事故で加害者に請求できるお金としては、慰謝料が最も有名ですが、損害賠償金には他にも様々な項目があります。事故で損害賠償を請求するときは、どのようなお金を受け取れるかを理解し、請求漏れなどがないよう注意しましょう。
もし、請求に関して不安なところ、わからないところがある方は、弁護士の無料相談を活用してみてください。
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