誹謗中傷とは何か
誹謗中傷の定義
誹謗中傷は、他人の悪口を言って、さらに根拠のない事を言いふらし、他人の名誉を傷つけることを言います。
誹謗中傷それ自体は法律用語ではありませんが、場合によっては、名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪、信用毀損罪、業務妨害罪などの罪に問われる可能性があります。
誹謗中傷を消すことができるが、心の傷は残る
こうした心ないネット上の悪口や根拠のない事を言いふらす行為は“指殺人”とも表現され、社会問題になっています。誹謗中傷は、削除を求めることは可能であっても、心の傷は一生残ることもあります。
芸能界では、人気女優が「最初はめちゃくちゃ驚きました。だって、会ったことも、話したこともない顔の見えない人から、言葉でグサグサと刺されるんだから」とSNS上でつづっていたこともありました。
サービスの利用をやめると不便になるので使わざるを得ない
厚生労働省の研究チームが発表した調査では、日本でTwitterの月間利用者は、17年10月に4500万人を超えている。したがって現在のSNSは、便利なコミュニケーションツールですので、様々な情報をSNSで知ることになります。
例えば、天気、電車の遅延、学校の休講、事件、事故、災害など、テレビより早く知ることもあるので情報ツールとしても使わざるを得ない状況となっています。
被害者が自死を選ぶ現状
2020年にはリアリティー番組の出演者が誹謗中傷を受け、自らこの世を去ったというショッキングなニュースもありました。
さらに韓国でも元女性アイドルグループメンバーが自宅で亡くなっているのが見つかったと報じられました。この女性は、誹謗中傷に悩まされていたとされています。
誹謗中傷に対する日本の取り組み
日本政府の動きと法改正の動き
こうした中、政府は2021年2月にプロバイダー責任制限法の改正案を閣議決定し、国会へ提出しました。
迅速な救済を行うことや匿名の投稿者を特定しやすくするなどという目的で、新たな情報開示の裁判手続きを簡略化をするなどといった内容です。
一方、総務省は、2020年8月に特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令の一部を改正する省令の制定し、電話番号の開示も請求できるようにしました。
有名人や専門家の意見
ネットリテラシー専門家は、誹謗中傷であっても「表現の自由」の1つであるとしていますが、「責任」を伴うと述べています。
ある女性芸能人はSNSで「芸能人だってひとりの人間、知らない顔・見えない人に心ない事を言われることも覚悟しなければならないという考えになるのが怖い」などと悲痛な思いをつづっています。
一方、自民党ではプロジェクトチームをつくり、プロバイダ責任制限法、民法、刑法などの改正を視野に入れているということです。
また、日本新聞協会は、被害者救済と表現の自由のバランスの重要性やSNS事業者の責任範囲についてなど、総務省に意見書を提出しています。
有料会員制の導入について
近年、欧米を中心とした有料会員制のクローズドSNSがブームになっています。有料会員向けコミュニティアプリなどもあり、誹謗中傷のコメントが書き込まれず、ファンとのエンゲージメントが向上するといった効果もあるようです。
中には、Facebookでのログインを必要とする有料会員制SNSもあり、信頼の向上を図っているサービスもあります。
SNSの実名投稿について
個人情報が流出しやすい特徴があるSNSの実名投稿。公開しているプロフィールや投稿した写真の景色や場所から特定されるといったケースもあります。
仮に実名を載せていなくても、実名を推測しやすいアカウント名であれば、個人を特定される可能性もあります。
一方で、実名投稿にはメリットもあり、仕事を中心としたSNS活用であれば、信頼関係をネット上で築き、そして新たな仕事につながる可能性があります。
誹謗中傷に対する世界各国の取り組み
アメリカの事例
Twitterの不適切なツイートに対しては、投稿ボタンを押す前に警告を表示させる機能を試験的に導入しています。
米人気シンガーから性的暴行を受けたと事実無根の内容を投稿したTwitterユーザーに対し、同シンガーが損害賠償を求めた事例もあります。
また、2020年には、アメリカ・ミネソタ州で白人警察官が黒人男性を圧迫死させた事件をきっかけに「Black Lives Matter」運動がSNS上で活発になりました。特に大手企業やファッションブランドがSNS上で賛同していました。
フランスの事例
2020年5月にネット上の有害コンテンツを通報から1時間以内に削除を求める法律が可決されました。
投稿者には、最大1年の実刑または最大200万円の罰金が課せられるというもの。しかし、この法案に「表現の自由」を損なうものとして批判の声が多く上がっていました。
一方、パリでは、交流サイトの誹謗中傷に苦しんでいた日本人シェフが死亡したという報道もありました。遺族は、誹謗中傷によりうつ病を患っていたと明らにしています。
ドイツの事例
ヘイトスピーチが深刻な問題となっているドイツでは、2018年1月から事業者に違法な投稿の削除などを義務づける「SNS対策法」が運用開始しました。
国内200万人以上のユーザーが登録しているプラットフォームが対象となり、削除対象は、刑法が禁止する違法情報です。適切に行わない場合には、最大5000万ユーロ(約60億円)の過料を科されます。
韓国の事例
アイドルの相次ぐ自殺が報じられ、SNSの誹謗中傷が原因とされています。韓国のアイドルは、デビューから完璧を求められる傾向にあります。
ですので、ファンがダンスや歌などにシビアになり、SNSではプライベートも明るみになり、拡散されることによってバッシングを受けるということが発生しています。
このような社会問題を受け、大手ポータルサイトでは、芸能ニュースへの書き込み機能廃止を発表しています。
また、韓国のガールズグループが所属する事務所は、誹謗中傷に対し告訴したことを明かしています。この事務所は、以前から虚偽事実流布、名誉毀損、業務妨害などを訴えていました。韓国では、2007年ごろから芸能人に対するネット上の誹謗中傷が横行しています。
まとめ
このようにインターネット上の誹謗中傷が社会問題とされる中、各国の取り組みや対応について解説しました。日本でもSNSは便利な反面、人権を侵害する事件が多発しています。